現代的と伝統的の不思議なコラボ=ヒラギノ明朝

TYPOGRAPHY SERIES 2

書体の表情 10 現代的と伝統的の不思議なコラボ=ヒラギノ明朝

書体の性格■各論編 ⑩ ヒラギノ明朝

現代的と伝統的の不思議なコラボ=ヒラギノ明朝

前回は、「SCREENグラフィックソリューションズ」の「ヒラギノ角ゴ」を紹介しました。macOSに標準搭載されていることを差し引いても、十分な実力を持った人気の高い優れた書体です。字游工房の製作によるもの。

今回は、同じ「SCREENグラフィックソリューションズ」の「ヒラギノ明朝」を取り上げます。

●書体名・ウェイト名:ヒラギノ明朝 W2, W3, W4, W5, W6, W7, W8 ●販売フォントベンダ:SCREENグラフィックソリューションズ ●書体の作者:字游工房アイコンの見かた書体の表情・書体の用途

メーカー・開発者の説明

現代的でシャープな表情の中に、伝統的な筆文字の美しさをマッチさせた華やかで上品な書体。起筆、送筆、収筆(とめ、はね、はらいなど)の各部に美しい筆づかいを取り入れつつ、日常的に使えるベーシックな明朝体として、デジタルならではの緻密さと一貫したデザイン性を持つ渾身の明朝体ファミリー。
きりりとした優美でしなやかなフォルムが特徴的で、暗くなりがちな明朝体でヒラギノシリーズ共通の明るさを持ち、万人から愛されるすっきりとした書体です。広告見出しから書籍本文まで幅広い用途に対応し、豊富なウエイト(太さ)バリエーションと仮名書体との組み合わせで、様々な表現を可能にするオールマイティさを備えています。

ヒラギノフォント総合情報サイト」より引用

ヒラギノ明朝の組み見本

書体の私見・感想

●現代的風合いの漢字、伝統的な香りが漂う両かな

この書体も、ヒラギノ角ゴ同様、macOS に標準搭載されています。デザインも同じく字游工房。かなは、代表の鳥海修氏の手によるものです。「現代的」書体の風合いが強い「漢字」と、現代的雰囲気の中にも「伝統的」な香りが漂う気品のある「かな」がよくマッチするできばえとなっています。

W2 から W8 までの7ウェイトが揃った、使い勝手の良い、これもヒラギノ角ゴ同様、この書体だけでデザインが完結できてしまう強さをもっています。

横組みを意識した若干「大かな」の作りになっているため、横組みでその真価を発揮する書体といって良いと思います。実に不思議な書体。縦組みより美しく感じてしまうのは私だけでしょうか。しかし、「大かな」の宿命として、可読性が落ちるということがあります。

後から追加された W2 は、書籍用に作られたもので、「小かな」になっています。いろいろなところでお話ししていますが、長文には「小かな」でなくてはなりません。

●横組みによく合い、Webにも相性が良い

横組みに適しているので、Web にも相性が良い数少ない書体です。

モニター解像度の関係で Web にはゴシック系が絶対的に向いており、明朝の入り込むスキはないのですが、この「ヒラギノ明朝」は大変読みやすく、明朝体の最大の強みである「信憑性」があるので、サイトに重厚感が生まれます。記事の信頼度を高める効果は、ゴシック体の比ではありません。

ただ、文字サイズを大きし、太く指定する必要があり、サイトデザインが難しいことも事実です。私はさんざん悩んだのですが、結局「ヒラギノ角ゴ」に落ち着いてしまいました。勇気のあるかたは挑戦してみてください。使用する価値は絶対あります。(使わなかった人間がいっても説得力はありませんが…)

「ヒラギノ明朝」を効果的に使い、かつデザイン性に優れたサイトを紹介します。訪れてみてください。ただし「ヒラギノ明朝」での表示が保証できるのは Mac のみです。あしからず。
 “ものかの〜豆大福おいしい〜” http://tama-san.com/

●やや冷たい感じがするところがもったいない書体

明朝体は、群雄割拠といえるゴシック書体に比べて、やや手薄な感じがしています。やはりダントツに強いリュウミンに他の明朝書体はかなり水をあけられているような気がします。

「ヒラギノ明朝」は、その中にあって、よく健闘していると思います。メーカーの紹介では「暗くなりがちな明朝体でヒラギノシリーズ共通の明るさを持ち〜」とありますが、ちょっと違うように思います。

私の目には、確かに暗さはなく明快な書体ですが、雰囲気がやや冷たい感じがあり、必ずしも汎用性があるとはいえないと感じています。冷たさの原因は「現代的」書体特有の直線的処理のため。丸みがなくなると、温かみは消えます。

私は、ゴシック書体同様、「伝統的」書体のほうが好みなので、「ヒラギノ明朝」は、ほとんど使うことはありません。リュウミンで、ほとんどのデザインがまかなえる(完全にリュウミン依存症かも…)からですが、ワンポイントの見出しなどには使います。何という贅沢で生意気な使いかたでしょうか!

●伝統的書体は今もなお生み出されている

最近、アドビシステムズが、西塚涼子女史制作の「貂明朝」という素晴らしい書体を発表しましたが、典型的な「伝統的」書体。また、精力的に新書体を生み出し続けるフォントワークスの鬼才、藤田重信氏の「筑紫明朝シリーズ」も典型的「伝統的」書体。現代でも依然として「伝統的」明朝体は生まれ続けています。

そういう、時代背景なのかも知れません。

不肖、私も明朝体の制作に意欲を持っていますが、作るなら「伝統的」のほうをイメージしています。明朝体の制作には強い覚悟が要りますけどね。

●日本のフォントは「字游工房」を抜きに語れない

明朝体は、ゆるぎない「中庸的」書体、リュウミンを中心軸に、はっきりとした「伝統的」と「現代的」のせめぎあいが続いていくでしょう。これは、選択するクライアントやデザイナーの好みが大きく反映します。明朝体は、基本中の基本書体、それだけにどちらかに落ち着いていくという、簡単なものではないかも知れません。

ただ、Macという、大きなプラットフォームに標準搭載という事実は大きく、時代が進むにつれて、「ヒラギノ明朝」は、「游明朝体」とともに、確実にリュウミンをおびやかす存在になっていくと思っています。ともにそれを荷っているのが「字游工房」。本当に恐ろしいフォントベンダーです。

あとがき

実は、この「書体の性格」では全12回中、字游工房の書体が3分の1の4書体を占めています。私は、あまり奇をてらわず現状ある代表的な書体を選定したせいもありますが、それにしてもやはり字游工房はすごいですね。

モリサワ(3回登場)、フォントワークス(2回登場)、字游工房(4回登場)という実力派と肩を並べるフォントベンダーは何といってもアドビシステムズかも知れません。ともかく日本語タイポグラフィスタッフの充実ぶりはこれまたすごい。日本語フォントを短期間で一定水準以上に作り上げる能力は、他のフォントベンダーの比ではありません。

次回は、そのアドビシステムズの一時期を支えたであろう書体「小塚ゴシック」を取り上げていきます。

書体の性格
もくじ
1 書体の選びかたでデザインが劇的に変わる。書体の性格を知ろう
  ●書体選定に役立つ、書体の表情を知るための12+1のチェックポイント
2 書体の表情
  1 ●この書体を使えば失敗はほとんどない=ゴシックMB101
  2 ●この書体を見ない日は、まずあり得ない=リュウミン
  3 ●正統派なのにどこか素朴であたたかい=セザンヌ
  4 ●おおらかさの中に風格が漂う=筑紫B見出ミン-E
  5 ●どのウェイトのどの文字種もほぼ完璧=游ゴシック体
  6 ●ワンポイントに独特の雰囲気を醸し出す=A1明朝
  7 ●普遍的なしっかりとした力を持っている=AXIS
  8 ●藤沢周平の小説を組むために作られたという=游明朝体
  9 ●macOSやiOSに標準搭載されている=ヒラギノ角ゴ
  10 ●現代的と伝統的の不思議なコラボ=ヒラギノ明朝
  11 ●好き嫌いがはっきり分かれる=小塚ゴシック
  12 ●作者の文字への情熱がほとばしる=小塚明朝

関連記事

  1. 書体の表情 2 この書体を見ない日はまずあり得ない=リュウミン

    TYPOGRAPHY SERIES 2

    書体の表情 2 この書体を見ない日は、まずあり得ない=リュウミン

    ■各論編 ❷ リュウミンこの書体を見ない日は、まずあり得な…

  2. 書体の表情 7:普遍的なしっかりとした力を持っている=AXIS

    TYPOGRAPHY SERIES 2

    書体の表情 7 普遍的なしっかりとした力を持っている=AXIS

    ■各論編 ❼ AXIS普遍的なしっかりとした力を持っている…

  3. 書体の表情 9:macOSやiOSに標準搭載されている=ヒラギノ角ゴ

    TYPOGRAPHY SERIES 2

    書体の表情 9 macOSやiOSに標準搭載されている=ヒラギノ角ゴ

    ■各論編 ❾ ヒラギノ角ゴmacOSやiOSに標準搭載され…

  4. 書体の表情 12:作者の文字への情熱がほとばしる=小塚明朝

    TYPOGRAPHY SERIES 2

    書体の表情 12 作者の文字への情熱がほとばしる=小塚明朝

    ■各論編 ⑫ 小塚明朝作者の文字への情熱がほとばしる=小塚…

  5. 書体の表情 6:ワンポイントに独特の雰囲気を醸し出す=A1明朝

    TYPOGRAPHY SERIES 2

    書体の表情 6 ワンポイントに独特の雰囲気を醸し出す=A1明朝

    ■各論編 ❻ A1明朝ワンポイントに独特の雰囲気を醸し出す…

  6. 書体の表情 11:好き嫌いがはっきり分かれる=小塚ゴシック

    TYPOGRAPHY SERIES 2

    書体の表情 11 好き嫌いがはっきり分かれる=小塚ゴシック

    ■各論編 ⑪ 小塚ゴシック好き嫌いがはっきり分かれる=小塚…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


おすすめ記事

  1. 書体の表情 12:作者の文字への情熱がほとばしる=小塚明朝
  2. 書体の表情 11:好き嫌いがはっきり分かれる=小塚ゴシック
  3. 現代的と伝統的の不思議なコラボ=ヒラギノ明朝
  4. 書体の表情 9:macOSやiOSに標準搭載されている=ヒラギノ角ゴ
  5. 書体の表情 8:藤沢周平の小説を組むために作られたという=游明朝体

最近の記事

  1. 書体の表情 12 作者の文字への情熱がほとばしる=小塚明朝
  2. 書体の表情 11 好き嫌いがはっきり分かれる=小塚ゴシック
  3. 書体の表情 10 現代的と伝統的の不思議なコラボ=ヒラギノ明…
  4. 書体の表情 9 macOSやiOSに標準搭載されている=ヒラ…
  5. 書体の表情 8 藤沢周平の小説を組むために作られたという=游…

アーカイブ

  1. タイポグラフィ7つのルール その❻-4 和文・英文が混在することで起きるさまざまな厄介なこと

    TYPOGRAPHY RULES

    タイポグラフィ7つのルール その❻-4 和文・英文が混在することで起きるさまざま…
  2. フォントフォーマットを知るための4つの視点と4つのフォーマット

    FONT

    フォントフォーマットを知るための4つの視点と4つの代表的フォーマット
  3. タイポグラフィ7つのルール その❻-3 文字組みを見やすくする[行頭・行末・分離禁則]、しかし…

    TYPOGRAPHY RULES

    タイポグラフィ7つのルール その❻-3 文字組みを見やすくする[行頭・行末・分離…
  4. 書体の表情 7:普遍的なしっかりとした力を持っている=AXIS

    TYPOGRAPHY SERIES 2

    書体の表情 7 普遍的なしっかりとした力を持っている=AXIS
  5. タイポグラフィ7つのルール その❷ 和文の美しさのカギは「つめる」こと

    TYPOGRAPHY RULES

    タイポグラフィ7つのルール その❷ 和文の美しさのカギは「つめる」こと
PAGE TOP
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。