▼第3回(通算第11回)
前回は、「行間」「行長」「ブロック(要素)同士の間隔」という、デザインの良し悪しを決定してしまう、極めて重要な要素をお話ししました。
今回は、直接的なデザインとはちょっと離れた、コーヒーブレイクみたいな回、「トンボ」と「空間(ホワイトスペース)」のお話しです。
第3回:通算第11回 もくじ |
3.4 トンボ([トリムマーク])の役割と3mmの限界値 3.4.1 ●トンボ([トリムマーク])の役割 3.4.2 ●重要な印刷工程「断裁」 3.4.3 ●トンボの 3mm(塗り足し分)はズレに対処する予防線 3.4.4 ●「息苦しい」デザインにしないために |
3.5 ただの余白ではない「ホワイトスペース」 |
3.4 トンボ([トリムマーク])の役割と3mmの限界値
A4 や B3 など、印刷物の仕上がりサイズを「判型(規格サイズ)」と呼びます。Illustrator 上では、判型および、トンボまでを含むサイズを設定したものを[アートボード]と呼んでいます。
「判型」に設定した[アートボード]から内側に四方それぞれ3mmまでは、文字を入れてはいけない領域です。これを私は 〔3mmの限界値〕 と呼んでいます。なぜ、この3mmの額縁状領域に文字を配置できないのか、それは、トンボ([トリムマーク])の役割と深い関係があります。
3.4.1 ●トンボ([トリムマーク])の役割
印刷物には、必ずトンボをつけなくてはなりません。トンボの形状は、塗り足し分3mmのガイドラインになっています。ご存じだと思いますが、写真や色ベタ部分を「裁ち落とし」にする場合は、3mmの塗り足し分が必要になります。
トンボの外側の線を「外(そと)トンボ」、内側の線を「内(うち)トンボ」と呼びます。この外トンボと内トンボの間隔は 3mmと決まっています。つまり、外トンボの位置が塗り足しの3mm分の境界線に相当します。いうまでもなく、内トンボは仕上がりサイズ[アートボード]の位置を表します。
オフセット印刷やオンデマンド印刷などの印刷物は、たとえば A4 のチラシの場合、A4 ぴったりのサイズの紙に印刷するわけではありません。少なくともトンボまでが入るひと回り大きな紙を使用します。レーザープリンターやインクジェットプリンターを使い慣れていると、当然、A4 で作ったものは A4 の用紙に印刷しますから、デザイン初心者は、トンボを付けないというをミスを必ず犯します。
さて、トンボの役割です。
先ほどの説明のとおり、印刷物は、A4 よりひと回り大きな紙にトンボつきで印刷します。でも、このままでは製品になりませんね。ですので、A4 サイズに裁ち落とさなくてはなりません。これを、「断裁」とも「化粧裁ち」ともいいます。この、A4 に断裁するためのガイドラインが内トンボなのです。
じゃ、外トンボはなんなの? 何で塗り足しなんかを作る必要があるの? という疑問が湧きますね。
3.4.2 ●重要な印刷工程「断裁」
「断裁」は、巨大で鋭利な斜めにセットされた刃がついた機械で行います。例は良くないかもしれませんが、あの、池田理代子さんのアニメで有名になった「ヴェルサイユの薔薇」で王妃マリー・アントワネットの処刑に使われた「ギロチン」と理屈は同じです。
断裁機と呼ばれる機械に印刷した紙をセットして、内トンボより外側の不要な部分を切り落とします。この、セットする工程は細心の注意を要しますが、どんなに正確にセットしてもこの段階で「ズレ」は生じます。
また、紙は、空気に触れた瞬間から、外気の環境によって伸び縮みします。印刷は、その工程上、印刷してから断裁するまでには、タイムラグがあります。なぜなら、印刷した紙のインクを乾かすのに一定の時間が要るからです。このタイムラグがズレを生じさせる原因になるのです。
断裁機は、1000枚、2000枚を一度に断裁するため、印刷された紙を強力な圧力で押さえ込みます。十分に押さえないと、刃が降りてきた瞬間にずれてしまうのです。断裁機の刃は、どんなに研ぎ澄まされていても、切断する瞬間に横に引っ張る力が生じます。その引っ張り力に負けない力で押さえ込む必要があるのです。
その強烈な圧力が働くので、インクを十分に乾かさないと、裏面に全部転写されてしまいます。これでは、もう、製品になりません。ですので、一定のタイムラグが必要なのです。(少ロット用のオンデマンド印刷は、トナー方式・インクジェット方式の2種類があり、いずれも「顔料」を使う一般的なオフセット印刷よりは、遥かに乾燥させる時間は短い)
3.4.3 ●トンボの 3mm(塗り足し分)はズレに対処する予防線
インクが乾くのを待っている間に、内トンボは、もうA4ではなくなっています。この避けることのできない「ズレ」に対処するために3mmの余裕を設けています。実際に3mmもずれることは、人為的なミスがない限りまずありえないことですが、これだけあれば、安全という 〔限界値〕 が3mmなのです。
近年、PDF による入稿データ(印刷に回すための最終データ)を指示してくる印刷会社が多くなってきました。PDF で入稿することが事前にわかっている場合は、Illusutrator 側でトンボをつける必要はありません。入稿時に PDF 側でトンボをつけます。この方法では、トンボが最後まで存在しないので、制作途上で写真や色ベタの塗り足しを作ることを忘れがちです。くれぐれもご注意を。
ファイル>別名で保存>ADOBE PDF (pdf)
なお、PDF 設定の[PDF/X-1a:2001(日本)}は、一般的に推奨されている設定ではありますが、印刷会社によって推奨設定は違っています。印刷会社に PDF 入稿をするときは、必ずその印刷会社の指定に従ってください。
トンボの説明が長くなりました。
仕上がりサイズ[アートボード]の内側3mmに文字を配置してはいけないという話でしたね。
これは、いまお話しした断裁上のズレと関係しています。もし、最悪3mmもずれた場合、その範囲内に文字があった場合、どうなるでしょうか?
そう、文字は切れてしまいますね。
多少ズレても塗り足しがあるのでさほど支障のない写真や色ベタと違って、文字は切れてしまったらもう終わりです。読めません。ですから、安全を考慮して内側 〔3mmの限界値〕 には文字を入れてはいけないのです。
3.4.4 ●「息苦しい」デザインにしないために
また、この3mmの空間は、デザイン上でも大変重要な意味を持ちます。それは「息苦しさ」を解消する最小限度の幅だからです。紙ベースの印刷物で最小サイズといっていい「名刺」には、とりわけこの 〔3mmの限界値〕 は重要です。〔限界値〕を1mmでも超えると、デザインはとたんに「息苦しい」ものになります。
ちなみに「息苦しさ」とは、空間に余裕がない、あるいは狭いことにより、圧迫感や閉塞感を与え、不快に感じることをいいます。
ECサイトの商品バナーに、この「息苦しい」デザインをよく見かけます。バナーサイズの内側わずか 0.5mmから1mmのところに文字があるのです。(この場合はpxに直したほうがいいですか? 1mmは約3px〈2.835px〉です)
ウェブデザインをするかたには、塗り足しや断裁という概念がないので、そうなるのでしょうか。でもこのギリギリさは「息苦しい」ことこの上ありません。最低でも10px程度は空けましょう。
3.5 ただの余白ではない「ホワイトスペース」
ホワイトスペースとは、「文字や画像などが何も記されていない余白部分」のことをいいます。ここでいう「ホワイト」は単に「白」ということではありません。たとえば、背景がピンクでも、文字や画像などが何も記されていなければ、それは「余白」であり「ホワイトスペース」です。
実は、私はこの「余白」という概念が好きではありません。「ホワイトスペース」をウェブ辞書で検索すると、冒頭のような言葉で定義されているので、仕方がないかも知れませんが…。
「余白」って、「余り」と書くじゃないですか。それがひっかかるのです。
デザイン上のホワイトスペースは、あくまで計算され尽くした、いわば、〔必然白〕でなければならないと思っています。
この章で触れてきた「文字間」「行間」「要素同士の間隔」の「間」は広い意味で、すべてホワイトスペースあり〔必然白〕です。
さて、何度もデザイン初心者を引き合いにだして、本当に申しわけないのですが、傾向として、用紙いっぱいいっぱいに要素(文字や画像類)を配列しがちです。こんな感じです。遊びがないんですね。
用紙いっぱいいっぱいに文字を配列するのは、「ホワイトスペース」が空くのを恐れる心理からである。でも、これでは、デザインの要素はなくなってしまう。
ホワイトスペースを意識して作ると(figure3-11)右図のようになります。明らかに記事スペース(文字や写真のスペース)は小さくなったのに、見やすくなっているしょう。
文字は、サイズが大きいから、ウェイトが太いから目立つわけでも、見やすいわけではありません。逆に、サイズが小さいから、ウェイトが細いから目立たないわけでも、見にくいわけでもありません。
サイズが大きいこと、ウェイトが太いことは、使い方を間違うと短所になり、小さいこと、細いことは、上手に使えば長所となります。ホワイトスペースは、デザインを整える、欠くことのできない潤滑油なのです。
要素とホワイトスペースは密接な関りがあり、それぞれが単独で存在するものではありません。
ホワイトスペースを「適切」に設け、「適切」に配置することが、デザインの価値を飛躍的に高めます。
あとがき
いかがでしたか? この章では、見る人に「心地よさ」を伝える重要な役割をする「あける」要素についてお話ししてきました。「あける」ことを意識したデザインは、見ていてとても余裕があり、気持ちの良い印象を与えます。いわゆる、「センスが良い」といわれるデザインは、この要素がしっかりしているのです。
● ● ●
次回は、この『デザインが100%良くなるタイポグラフィ7つのルール』の中ほど、第4章に入ります。題して “タイポグラフィ7つのルール その❹ 強調・複合などを盛り込む「たす」要素” です。ご期待ください。
この記事へのコメントはありません。