▼第6回(通算第23回)
前回は、縦組みの際に発生するさまざまなことについて触れてきました。日本人にとって縦組み文章は切っても切り離せないものです。もう、日本独自のものになりつつある「縦組み」を制するものは、デザインを制するのです。
今回は、「書体の性格を知る」と題して、和文フォントの種類や特徴についてお話ししていきます。
第6回:通算第23回 もくじ |
6.10 書体の性格を知る 6.10.1 ●女性的で、伝統的な「明朝体」 6.10.2 ●男性的で、現代的な「ゴシック体」 6.10.3 ●毛筆体 6.10.4 ●POP体 6.10.5 ●デザイン書体 6.10.6 ●学参フォント |
6.10 書体の性格を知る
和文書体は大まかにわけて、明朝体、ゴシック体、毛筆体、POP体、デザイン書体の5つに分類されます。私はそれに加え、特殊な書体である学参フォントを挙げたいと思います。
これらの書体はそれぞれに、明確な「性格」を持っています。ですので、デザインをする上で、書体の選定はその「性格」を使いこなし良さを引き出す、極めて重要な作業といっていい過ぎではありません。
以下、一般的なそれぞれの書体のイメージを取り上げておきます。性格を知れば、それぞれのシチュエーションに合った書体選びができるようになります。
見本に使用した文字列の上段は「ベタ」組み、下段の「温故知新」は[トラッキング]で[−50]、「故キヲ温ネテ新しきを知る」は[自動(メトリクス)]の、それぞれ詰め組み処理を施してあります。
なお、詳細は「第2部:書体の性格(仮題)」に譲ることとします。
6.10.1 ●女性的で、伝統的な「明朝体」
最大の特徴は、横線が細く、縦線が太い、横線の終わりに、「うろこ」と呼ばれる三角形がついている、ことでしょうか。
その抑揚のあるフォルムは、女性的であり、伝統的。母性の優しさに溢れ、語る言葉は、とても思慮深く真実味があり、説得力があります。
この書体はウェイトが上がっても女性的であるとか説得力があるといった印象はあまり変わりません。ただ、太くなると、「男前」な女性、かっこいい女性、ついていきたい姉御的な女性などとという雰囲気も加味されていきます。
●リュウミンは、8ウェイトある。
●筑紫見出しミンは、単独ウェイトだが、かなが異なる「A見出しミン」もある。
●本明朝は、5ウェイト、小がな、新がな、新小がながある。 詰め情報を持っていないので、[オプティカル]で詰めた。
●ヒラギノは7ウェイトある。
●游明朝体は、6ウェイトある。
6.10.2 ●男性的で、現代的な「ゴシック体」
明朝とは異なり、横線と縦線の太さの差があまりないのが、最大の特徴です。この書体はウェイトによって、表情や性格は変化していきます。また、角ゴシックと丸ゴシックの2種類あり、同じゴシックに分類されながら、性格は大きく異なります。
角ゴシックは、全体的には男性的で、現代的。繊細さと力強さを兼ね備えています。信憑性は、明朝よりやや劣り、ウェイトが上がるにつれて薄れていきます。可読性が高いので、ウェブページには適しています。
丸ゴシックは、どちらかというと女性的。現代的、明るさ、親しみやすさがある反面、軽薄さも持ち合わせているので、過度な使用は避けたほうがいいでしょう。説得力は角ゴシックほどありません。
●ゴシックMB101は、8ウェイトある。
●セザンヌは、4ウェイトある。現代的なフォルムのニューセザンヌ4ウェイトもある。
●AXISは、5ウェイトある。
●ヒラギノ角ゴは7ウェイトある。
●游ゴシック体は、7ウェイトある。
●新丸ゴは、7ウェイトある。
●じゅんは、4ウェイトある。
●スーラは、6ウェイトある。
●平成丸ゴシック体は、単独ウェイトである。
●シリウスは、5ウェイトある。 詰め情報を持っていないので、[オプティカル]で詰めた。
6.10.3 ●毛筆体
毛筆体は、5種類に分類されます。篆書体、隷書体、楷書体、行書体、草書体です。これ以外の毛筆書体はあくまで毛筆(風)書体でありデザイン書体に分類したほうがよいでしょうが、境目は大変難しい。なぜなら、毛筆書体はすべて手書きであり、書き手の癖が色濃く反映します。その意味では、先の5書体もデザイン書体といえるからです。
それぞれの性格、用途は比較的はっきりしています。
篆書体は印鑑用の書体。象形文字的な雰囲気を残しています。実印にはこの書体が合っています。隷書体も印鑑用の書体。こちらは一般的な認め印などに使用されます。この2書体はどちらも文字としての完成度が高く、筆勢が美しいため、ワンポイントとしてデザインに用いると、非常に効果的な強い力を持っています。
楷書体は、現在使われている毛筆書体のなかでは最もポピュラーでよく使われる書体です。ていねいな筆勢なので挨拶状、招待状、名刺など、公式的な文書に適しています。説得力は抜群です。
行書体は流れるような筆勢が特徴の美しい書体。手紙風のデザインや、俳句・短歌などを表現するのに適しています。
草書体。この書体のフォントの数は多くありません。あまり需要はないですよね。なぜなら、文字を崩して書くのがこの書体の特徴であり、可読性が乏しいからです。用途は俳句・短歌など、またそれらを装飾的にデザインの一部に使用する場合などに限定されるでしょう。
毛筆の美しさを競う場ならともかく、デザインに使うには、読めないというのは致命的です。
このほかにも有名なものに、教科書体・勘亭流・寄席文字などがありますが、それぞれ大きな特徴があり、説明するまでもないでしょう。
6.10.4 ●POP体
POP 体というと、すぐに思いつくのは「創英角ポップ体」ではないでしょうか。Microsoft Office に標準搭載されたことから、飛躍的に有名になった書体です。この書体があまりにも目立ち過ぎて、ほかの POP 体がすぐに思いつかないくらいです。アプリケーションに標準搭載されるってすごいことなんですね。
そのせいで、明らかに場違いなところ、文書にもこの書体が使われているのを、本当に頻繁に目にします。この書体に罪はないですが、「ポップ体」という名前がついているのです。用途は POP や、柔らかい内容の表現に限定すべきです。この書体の作者もきっと切に願っていらっしゃると思いますよ。
6.10.5 ●デザイン書体
POP 体とデザイン書体の境目はどこにあるのかといわれると、正直迷いますが、やはり用途で明確にわかれると私は思います。
POP 体はその名の通り、お店の店頭でよく見られる POP に使われる、あの独特の太い書体(どうしても創英角ポップ体しか思いつかないのは私だけ?)です。だから使用範囲は POP 限定です。
デザイン書体は、デザイナーズフォントと呼ばれていて、作者独自のフォルムを持った、比較的広範囲に利用できる書体といっていいでしょう。
ただ、総体的に、お堅い文書などには向きません。
新ゴは、ゴシック体に分類すべきかも知れないが、あえて、デザイン書体に入れた。
大変優れた書体で、汎用性も高いが、幾つかの点で、一般的なゴシック体のセオリーから外れているためである。
なお、当然のことながら、ゴシック体の質が「上」で、デザイン書体が「下」という意味で分類したのではない。
手前味噌だが、「和音」は、私の制作した書体である。
6.10.6 ●学参フォント
学参フォントは、モリサワが制作した書体で、このような定義になっています。
「文部科学省の「学習指導要領」にある「代表的な字形」に準拠したフォントです。普段書く文字とできるだけ同じ形になるように設計されています。手書きの文字と印刷の文字との差異をなくし、視覚的に筆画がわかりやすいデザインにすることで、教育の現場に適した書体設計になっています。」
(モリサワ・オフィシャルサイト「学参フォント」より)
これを敢えて種類に入れたのは、「使えるのは、この用途だけですよ」ということをいいたかったからです。
モリサワの取り組みには敬意を表しますが、この書体がデザインに使えるかというと、はっきりいって使えません。なぜかというと、書体のフォルムのセオリーからはずれているからです。(責めているわけではありませんよ。成り立ちからいって、当然なのです…。)
これは、見たほうが早いでしょう。ご覧ください。全然違うでしょう?
上段の下層には、A-OTFを「青」で配置した。見づらいと思うが、よく見るとかなり違うのがわかると思う。
下段には、上の文章中の、違いが顕著な漢字を抜き出した。仕方がないのだが、書体のセオリー(この例では明朝)が無視された部分がたくさんある。なお、両仮名もだいぶ違っているが、ここでは触れない。
なお、学参フォントの見わけかたは、フォントメニューの書体名の前に「G-OTF」という表示がある書体です。「G」は「学参」の頭文字なんでしょうね。
デザインには「A-OTF」を使いましょう。(モリサワフォントを使うなら、ですよ)
ちなみに、A-OTF の「A(正確には A-OTF 全体)」とは、Adobe Japan Character Collection for CID-Keyed Fonts の略(?)とのこと。ようするに、「Adobe 規格の文字セットのフォント」ということです。
昔、この、A-OTF の「A」は、アプリケーションのフォントメニューの上位に来るためにつけたなどと、誰かから聞いたことがあります。これは「都市伝説」なんでしょうね。
でも確かに、フォントメニューの上位はモリサワ書体が独占しているし、ほとんどの書体は、Adobe Japan1-0~1-6 までのいずれかの規格に準拠していて、わざわざ A-OTF とつける必要もないわけで、あながち「都市伝説」でもない…。これ以上ふれるのはやめましょう。(怖い、怖い)
あとがき
かなり長い章になってしまいました。それだけ「組版」は説明する部分が多くて奥が深く、一筋縄にいかないタイポグラフィルールなのです。ここをしっかり押さえておかないと、いかに他のルールを守ろうが、テクニックを駆使しようが、できあがった作品の価値は大幅に下がります。
ゆえに、大変でしょうが、身に付けていってほしいと思います。
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次章 “タイポグラフィ7つのルール その❼ 「ひらく」ことは読者の目と心への思いやり” は、漢字をひらがなにするだけで、デザイン全体の雰囲気が変わる魔法の心遣い「ひらく」をおはなししていきます。ご期待ください。
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