▼第2回(通算第19回)
前回は、[テキストオブジェクト]についてお話ししました。“6.1 テキストオブジェクトを使う” の冒頭でも触れましたが、この[テキストオブジェクト]を正確に使いこなしているかたが本当に少ないことに驚きます。この事実が、組版の質を落とす大きな原因になっています。警鐘を鳴らす意味で、かなり詳細にご説明しました。
今回は、組版上の推奨事項についてお話しを展開していきます。
第2回:通算第19回 もくじ |
6.3 美しい紙面を作る8つの文字組み推奨事項 6.3.1 ●和文用・英文用の区別を明確に 6.3.2 ●注意が必要、感嘆符や疑問符の扱い 6.3.3 ●分離禁止には細かい心づかいを 6.3.4 ●最終行の文字数、1文字はNG 6.3.5 ●「未亡人」や「孤児」を作らない? |
6.3 美しい紙面を作る8つの文字組み推奨事項
文字組みには一定の遵守すべき事項があります。細かくすべてを説明するのは大変ですので、これだけ知っていれば取りあえずは大丈夫だろうと思われる8項目をあげてみました。
6.3.1 ●和文用・英文用の区別を明確に
① 和文・欧文ともに同じ字形が存在する約物【()!?&“”】などは、それぞれ和文用・欧文用を混在させないようにしましょう。特に外部からの支給テキストは、和文用・欧文用が混在している確率がほぼ100%なので注意が必要です。
左側囲み図の説明:括弧類や、感嘆符、疑問符、引用符は、欧文にも存在するが、和文と共通のデザインではない。特に括弧類は上図のようにかなり違う。また、位置も書体によってまちまちだが、おしなべて和文より下がる。リュウミンはそれが顕著である。
洋数字も和文用と欧文用は異なる。和文のみにある全角洋数字は、ほとんどの書体で横幅が広くデザインされている。(上記見本はスペースの関係で詰め組みしてある)
感嘆符、疑問符、引用符は、デザインは同一の書体が多いが、決定的に違うのは横幅である。和文用は当然ながら全角の中に配置されているが、欧文用は、グリフの幅しかない。(サイドベアリングの分はプラスされている)
右図の説明:❶は、欧文用が混在している例。異質な感じがわかるだろうか。よほどフォントに興味でもない限り、和文用と欧文用があることを一般のかたは知らない。
したがって外部からの支給テキストは、100%これが起こる。欧文用の洋数字や約物の左右はサイドベアリングが狭いので詰まっていて見づらい。
❷は、和文用に修正したもの。文章の途中に入る(!)、(?)は、括弧のみ、(!?)、(?!)は、すべて詰めたほうがよい。
❸は、(!?)を[自動(メトリクス)]処理したもの。
なお、見た目を分かりやすくするため、[段落]の[文字組み]を[なし]にした。
② 文章に、英文・数字を1文字のみ混在させる場合は、全角欧文・全角数字を使います(和文扱い)。ただし、文章全体を詰め組み[メトリクス]・[オプティカル]にするときは、その限りではありません。
(figure6-5❷)
なお、書体によっては、全角数字(英文)と半角数字(英文)のデザインがかなり違うものがあります。その場合は、半角数字(英文)を使い、その両サイドに1/4角を挿入する処置が必要になります。なお、1/4角の挿入については “3.1.2 ●数字(半角)や英文の、両サイドの空きについて” を参照してください。
6.3.2 ●注意が必要、感嘆符や疑問符の扱い
③ !?の後は「全角」をあけたほうが良いでしょう。文章全体を詰め組み[メトリクス]・[オプティカル]にするときは「半角」にします。ただし、この措置は【!・?】で文章が一区切りする場合のみです。文章の途中で修飾語などを強調するためや、微妙なニュアンスを表現するために使う場合は空けないでください。
たとえば、「悪ふざけした彼は、彼女から強烈?なビンタを喰らった」という具合です。
④ 和文に、!!、??のように感嘆符や疑問符を2つないし3つ続けるときは文字送りを[自動]あるいは[オプティカル]にし、文字間を詰めてください。この場合も、欧文用は使用しないでください。
(figure6-5❸)
6.3.3 ●分離禁止には細かい心づかいを
⑤ パンフレットなどの比較的短い文章は、人名や単語を可能な限り分割させないようにしましょう。
⑥ 長い単語の英文が混在する場合、欧文の「分離禁則」が働いて、前後の行の文字間が広く空く場合があります。非常にみっともないので、英文の単語の「適切」な位置にハイフンを入れて(ハイフネーション)改行したり、和文を詰めるなどして調整しましょう。
上段図の説明:左側の図は、[段落]の[文字組み]をデフォルトの[行末約物半角]で組んだもの。この文字組みは英文には向かない(figure6-7参照)。
なぜなら和文扱いされ、本来空けてはならない文字間に、1行目のようにスペースが入ってしまうからである。
英文が混在している場合は、[段落][文字組み]を[なし]にしたほうが良いが、[なし]にすると、英文や洋数字の左右に入るべき1/4スペースが入らなくなるという矛盾が起きる。
右側の図は、[段落][文字組み]を[なし]にして、英文の両サイドをカーニングで広げたり、スペースを長体にして挿入するなど、細かい手作業を施している。
下段図の説明:左側の図は、上段と同じ[段落]の[文字組み]をデフォルトの[行末約物半角]で組んだもの。「ベタ」組みよりは改善されたが、それでもまだおかしな部分が残る。
この例文は、「ベタ」組みで正確に13字詰めに設定してある。この字詰め数は新聞や雑誌に見られる字詰め数に近い。
これくらいの短い行長(少ない字詰め)では、英文の文字間が割られる現象が頻発する。結果として、矯正のための手作業は必須になる。
英文の文字間は、25から30字くらいになると、割られはするが、目立たなくなる。
なお、右側の図は、[段落][文字組み]を[なし]にして、英文の文字間を[トラッキング]で詰めたりして、上段同様、細かい手作業を施している。
(figure6-6)左図は、運の悪いことが4つ重なってこのような間の抜けた状態になっています。
原因がどこにあるかわかりますか? 4つに共通すること。それは、文字間が広く空いてしまうことです。それでは、ひとつずつ解明していきましょう。なお、上段はベタ組み、下段は[自動(メトリクス)]で詰め組みしたものです。ここでは上段(ベタ組み)を使って説明をします。
1つ目(figure6-6-2❶)
1行目に “Design” が入りきらず(英文は単語を2つに分割できない「分離禁則」が働く)2行目に押し出されたため、1行目の文字列にその差分が割り振られてしまった。(差分:この場合は、計算上では “Desig” まで入る。その文字幅分)
2つ目(figure6-6-2❷)
主に行長が短い(字詰めが少ない)ことにより起こる典型的な例。5行目の文字列の字間が広く空いてしまった。字詰めが少ないため、差分が割られる一つひとつの幅が大きくなるからだ。行長が長いと、それが目立たなくなる。なお、この現象は、ベタ組みでも[自動(メトリクス)]をかけても起こる。
3つ目(figure6-6-2❸)
7行目に “Typography” が入りきらず、8行目に押し出されたため、文字数が少ないにもかかわらず7行目の文字列にその差分が割り振られてしまった。
4つ目(figure6-6-2❹)
8行目も文字列が割られている。8行目には計算上では『パ』まで入るが、『パ』の次の『ー』(音引き)が、行頭にくることを禁止する[行頭禁則文字]のため、『パ』が次の行に押し出された(“6.4.1 ●行頭や行末のルールなどを定めた禁則処理” に詳細)。また、9行目は『語』まで入るが、同じく『っ』が[行頭禁則文字]のため『語』が次の行に押し出されてしまった。(9行目は普通の字詰めに見えるが、8行目の影響を受けている)
このように、運が悪いと、たった10行の文章でもほとんどの行が影響を受けて、ガタガタの文字組みになります。
ちなみに、ハイフネーションは「段落」の一番下にある「ハイフネーション」にチェックを入れれば自動的にやってくれます。
上図は、❶が普通に組んだもの。2行目・3行目の単語間が広く空いている。❷は、[段落]の[ハイフネーション]にチェックを入れたもの。
「Penies」がハイフネーションされ2行目・3行目に分かれたことで、文字間のばらつきがなくなっている。
なお、上段左は[段落]の[文字組み]をデフォルトの[行末約物半角]で組んだもの。英文にはこの[文字組み]はNG。 和文扱いされ、文字間にスペースが入り込んでしまう。
和文は[行末約物半角]で、だいたいの文章は支障なく組めるが、英文は[段落]の[文字組み]を[なし]で組むのがベストである。
なお、洋数字や、英文両サイドの「アキ」については、次回の第3回で[文字組みアキ量設定]のカスタマイズについて触れますのでそこで詳しくお話しします。(figure6-6)では、説明をわかりやすくするために、和文にあまり使うべきでない[文字組み]の[なし]を使用しました。
6.3.4 ●最終行の文字数、1文字はNG
⑦ 改行した行の直前行、および、段落の最終行は1文字で終わらせてはいけません。(この場合の句読点【。】は1文字にカウントしません)最低でも2文字は残るようにしてください。(理想は4文字くらいですが、これは大変かも)
左上図は、最終行(7行目)が「る」の1文字で終わっている。 句点【。】は1文字にカウントしないので、実質1文字になる。これはNG。(たまたま例文は最終行だが、最終行だからいけないという意味ではない)
右図❶は、手前の行(6行目)を[トラッキング]で広げ、「あ」を強制的に追い出して7行目を2文字にした。見た目には4文字程度が望ましいが、物理的には不可能なので、最低でも「2文字」になるよう調整する。
なお、[トラッキング]で広げる行は基本的には直前の行になるが、仮名(ひらがな・カタカナ)が多い場合はその行は避けて、漢字の多い行を選んで広げ押し出す。
右図❷は、適当なところで改行して押し出したもの。比較的簡単な追い出し法だが、原文に手を加えることになるので、支給された文章の場合は、作者の了解を得なければならない。
6.3.5 ●「未亡人」や「孤児」を作らない?
⑧ 一つの文章で、2段組み以上(テキストオブジェクトが複数段)になり、段落も複数になる状況で、段落が2段にまたがる場合
1段目の最終行は段落を1行だけにしてはいけません。これを「オーファン(孤児)」と呼んでいます。
また、次の段の最初の行を1行にしてもいけません。これは「ウィドウ(未亡人)」と呼びます。
どちらもどこかの団体から叱られそうな言葉ですが、見る人に寂しい思い(印象)を与えたくないという前向きな施策であることをつけ加えておきます。
ただし、物理的にどうしようもない場合は仕方ありません。
この2種類は、できれば避けたい。 特に「ウィドウ」は、見た目が非常に悪いし読みづらい。
改行を取って、段落をつなげたり、逆に改行をして新たに段落を作るなど、何とかして、回避したいが、どうにもならない場合もある。
なお、(figure6-8)でも述べたが、支給された文章に手を加えるときは、作者に許可をとる必要がある。
下の図は組版の各部の名称。(横組みの場合)
表(ひょう)組みは横方向が「行」、縦方向が「列」になる。
文章の場合の「列」は、概念としては存在するが、「表」のように仕切りがあるわけではないので、実質的な意味合いは「行」と同じである。
下段「行」「列」の説明:「行」と「列」は区別しにくいので、迷ったら右図の漢字を思い浮かべると良い。
「行」は横方向のならび、「列」は縦方向のならびである。縦組みはこの逆になる。
行 :文字などの、縦または横の並び。
列 :順に長く並ぶこと。連なること。また、そのもの。ならび。
段 :段組みでわけられた、文字をレイアウトする列の一つひとつ。
段落:長い文章を、内容などからいくつかにわけた区切り。
(goo辞書-大辞泉 より引用)
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次回(第3回:通算第20回)は、組版上の最重要のルールについてお話しを展開していきます。
第3回:通算第20回 予告 |
6.4 一筋縄でいかない和文組版 |
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