第9回 写植の構造と版下製作という特殊工程

MOJI ESSAY

私のデザイン変遷史 第9回 写植の原理と構造

私のデザイン変遷史第9回

写植機の原理

さて、写植に話を戻そう。

重くて取り扱いが大変だった「活字箱」にとって代わって「文字盤」が出現する。この文字盤は2枚の透明なガラスの間に、鏡像の文字を規則正しく配列したネガフィルムをサンドイッチ(実際には片方のガラスの表面に直接焼き付けたもののようである)した仕様のものだった。

私は、モリサワの文字盤しか扱っていないが、モリサワの文字盤の厚さは4mmくらいだったと記憶している。サイズは150mm×100mm(あくまでおぼろげな記憶のみ)くらいのものが6枚組み合わさり、金属のフレームで固定されたものである(写研の文字盤は6枚分すべてがつながった1枚ガラスでできていた。当然精度も高かった)。ガラスだから、それなりの重量はあったが、それでもタイプライターの「活字箱」から比べれば、革命的な軽量だった。

モリサワ サイト:文字の手帖 技術と方法2 写真植字

機械の構造を下部から上部に向かって順に名称をあげてみる。なお、説明にはモリサワの MC-6 を使用。構造的にはどの機種も大差ないと思うが、別の機種、あるいは写研の機種を知りたいかた、ご容赦願いたい。

①光源ランプ ②文字盤(文字盤フレーム) ③ハンドル ④レンズターレット ⑤ラチェット ⑥点字ドラム ⑦シャッター ⑧マガジン である。

順に説明していく。

①光源ランプ

機械の最下部にあり、上方向に向けて光を放つ。このすぐ上に文字盤がある。強烈な光が必要なため、モリサワではハロゲン球を使用していたようだ。

②文字盤(文字盤フレーム)

冒頭で説明した文字盤をセットするフレーム。両サイド・奥の3方向に、高さ10mmほどの巨大なのこぎりの歯のようなギザギザがついていた。この、のこぎりの刃の1枚分と同形状の刃を電磁石の働きで3方向同時に押さえ込み、固定する構造になっている。いったん固定すると、押しても引いても、左右に揺さぶっても、容易には動かない。

③ハンドル

機械の文字盤よりやや上部(手元の位置)にハンドルがある。このハンドルは、❶文字盤を固定させ、❷シャッターを切り、❸文字送りをするためのラチェットを回す という3種類の役割を持っている。下に向かって振り下ろす動作で一連の作業を行う。

❶文字盤を固定する
目的の文字が見つかり、写口(レンズターレットの1階階下にある長めの四角錘状のもの。文字盤に近接しており文字盤から光を呼び込む役割を持っている)の下まできたら、文字盤を固定する(少し下げるだけで文字盤は固まる)。

❷シャッターを切る
ハンドルのすぐ下に、できそこないのスプーンのような金属板があり、それを下ろすとシャッターが切れる。
ハンドルを中腹までおろすとその金属板にあたり、シャッターが切れるようになっている。

ハンドルと別構造になっているのは、文字盤を固定させてシャッターを切るまでにわずかなタイムラグを作る(完全に固定されないとブレて印字される)ためと、組み数字(たとえば03:写植の数字は半角にデザインされていた)を打つため。左側の0でシャッターのみ切り、同じ位置で右側の3を打ち文字送り(以下で説明)動作をする。それから、70級以上の大きい級数を打つとき複数回シャッターのみ切りたいときに対応するため。

❸文字送りをするためのラチェットを回す
ハンドルの右側に一まわり細いサブハンドルがあり、ハンドルを下まで振り切るとハンドルの右の突起に当たってサブハンドルも一緒に下がる。その動作でラチェットが回転するようになっている。ハンドルと別構造になっているのは、文字盤の固定もシャッターも必要のない「空送り」(スペースを空ける)に対応するため。

④レンズターレット

文字サイズを決める筒状のレンズの集合体で2階建て(モリサワの場合)になっている。
1階は7級・8級・9級・10級・11級・12級・13級・14級・15級・16級・18級・20級の12本。2階は24級・28級・32級・38級・44級・50級・56級・62級・70級・80級・90級・100級の9本(70級から100級は1本にまとまっており、1枚のレンズをスライドさせて焦点距離を変え、4種類のサイズを設定するようになっていた)

筒状レンズは文字サイズが大きくなるに比例して太くなる。2階の本数が少ないのはそのためである。

「級」とは、写植が持ちこんだ文字サイズの呼びかた。1級が0.25mm。したがって7級は1.75mmになる。文字送り、行間の表示は、換算法は同じだが、呼びかたは「歯(は・ぱ)」となる。この「歯」という呼び名は、文字送り、行送りを可能にする歯車に由来する。

⑤ラチェット

歯車は、機械の中腹くらいにあり、歯止めとセットになったいわゆるラチェット機構(動作方向を一方に制限するために用いられる機構)の主役である。1目盛りで0.25mm移動する。すなわち1歯=1級である。

この歯車に、歯止めの爪と、歯数設定用の薄い金属(歯車に沿って湾曲している)がセットになっている。歯車の下に1から50までの目盛り(目盛りがいくつまであったか記憶は定かでない)がついており、その目盛りをスライドさせると、歯数設定用の薄い金属が、それに応じて移動する仕組みになっている。たとえば「10歯」に設定するとその薄い金属が10目盛り以降を隠し、歯止めが正確に10目盛りを移動させるようになっている(わかります?)。

⑥点字ドラム

マガジンとほぼ同位置の手前(オペレーター側)にある。これは、文字を印字した際に、印字位置を擬似的に表示する(どのように印字されたのか現像するまで分からないので、印字した位置だけでも目視し認識する必要がある)ためにある。

機種により形状はさまざまだが、私が初期に使っていたモリサワの MC-6 は直径100mm程度の筒状の金属板に方眼の目盛りが印刷されたプラスチックが貼られていた。ここに水性マーカーで点字として打たれるのである。水性マーカーはシャッターを切った瞬間に点字板に向かって弾くように動き点字する(タイプライターの活字が打たれるイメージといって想像つくだろうか)。

水性マーカーの打ち出される位置は固定しており、点字ドラムが一連の操作によって、上下、左右に移動するようになっている。動作や仕組みはタイプライターとほぼ同じである。

⑦シャッター

点字ドラムの真下に挿入口があり、そこから差し込んでセットする。差し込むと外からは見えないが、シャッター音が外によく聞こえるような構造になっていた。

⑧マガジン

文字を印字する専用の印画紙をセットする着脱できる箱のこと。機械に設置し密閉したあと印画紙と同サイズ(左右が)の窓を開ける構造になっている。

透明に抜けている文字盤の文字に向かって、下から光源ランプの光を照射する。文字盤を通過した文字形状の光は所定の文字サイズのレンズを通って級数が決められ、シャッターが切られる。その一瞬の光がマガジン内の印画紙に焼き付く。この一連の動作が、1回の操作で同時進行していくのだ。

なお、マガジン内で感光した印画紙は写真なので、当然ながら現像しなければならない。したがって、写植機があるところ、必ず暗室が存在したのである。

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