前回は、揃え処理の基本中の基本、揃えの種類の紹介と、デザイン初心者の共通した「よくあること」、ガイドの功罪などをご紹介しました。
今回は、タイポグラフィに欠かすことのできない、文字の構造についてお話ししていきます。
第2回もくじ | 1.4 決して遠回りではない「文字を知る」こと 1.4.1 ●「フォント」と「書体」 1.4.2 ●包括的に表現される「フォント」 1.4.3 ●ジャンルや特定の名称をさす「書体」 |
1.5 文字形状(グリフ)の構造を知る 1.5.1 ●完璧なデザイン構造の「欧文」 1.5.2 ●宿命的な構造上の問題を抱える「和文」 1.5.3 ●空間に左右される文字の大きさ 1.5.4 ●ひらがなとカタカナの駆け引き 1.5.5 ●和文の宿命的な欠点は、本然的な長所でもある |
1.4 決して遠回りではない「文字を知る」こと
行を構成するには、当然のことながら文字が必要になります。行の揃え処理の大切さが理解できたら、次は文字の揃えに移りましょう。文字の揃えは、一筋縄でいかない厄介な一面を持っています。ここをしっかり押さえることで、のちの「つめる」や「あける」などのタイポグラフィの必須条件がいかに大事かがわかるようになっていきます。
1.4.1 ●「フォント」と「書体」
文字の説明に入る前に、「フォントと書体」について触れておきましょう。フォントと書体は、現在ではほとんど同義語のように使われています。それで通じてしまうので、間違いだと一概に断定できないな、と私は思います。でも厳密には違います。
1.4.2 ●包括的に表現される「フォント」
「フォント」は、もともとは欧文活字の1セット(大文字・小文字・記号類など)をさしてそう呼んでいました。
現在では、特定の書体をさしての呼び名ではなく包括的な表現、つまり、「パソコンにインストールし、文字の形状(グリフ)を出力するためにプログラムされたソフトウェアのこと」をいいます。(なんのこっちゃ! でもついてきて…)
ちなみに、OpenType や TrueType、ひところ主流だった CID などのことをフォントフォーマットと呼びます。(別記事 “フォントフォーマットを知るための4つの視点と4つのフォーマット” を参照)
1.4.3 ●ジャンルや特定の名称をさす「書体」
「書体」とは、欧文であればセリフ・サンセリフなど、和文であれば明朝体・ゴシック体などといった、文字形状のジャンルをさす場合に用いられます。また、特定のタイプ(書体)デザイナーによってデザインされ、特定の名前を持ったグリフの集合体をさします。たとえば、新ゴPro-L だとか、和音TTF-U などと呼ばれるものを「書体」といいます。
一番簡単にいってしまうと、フォントが「プログラム」、書体が「グリフ」ということになるでしょうか。ただ、どちらも、片方だけでは成り立たず、双方の要素を持ってはじめて一つの形になります。ですので冒頭にも書いた通り、同義語ととらえられても仕方がないのかな、と私は個人的に思っています。
1.5 文字形状(グリフ)の構造を知る
「書体」は、欧文書体と和文書体の2種類に大きくわけることができます。書体は、私も含めた書体デザイナー諸氏の、涙なしでは語れない苦労の結晶です。決して、空気のように「もと」からあるわけではありません。
1.5.1 ●完璧なデザイン構造の「欧文」
欧文は、ただ並べるだけで非常に揃って見えます。これは、
① 文字と文字の間隔が一定であること(各文字が独自の文字幅情報をもっており、文字の両サイドのサイドベアリング〈文字間〉が必要最小限に設計されている)
② 文字を構成する線の数に大きな差がないこと(欧文に画数という概念が適当かどうかはわかりませんが、画数に大きな差がなく、文字組みしたときの濃度が一定)
③ 明確なベースラインが存在し、それを基準に揃っていることや、大文字・小文字の高さ(height)が一定の決まりごとによって揃っていること
にあります。
1.5.2 ●宿命的な構造上の問題を抱える「和文」
それに対し、和文は、
① 文字によって左右・上下の幅のばらつきがあるのに、すべて正方形の中に収まっている
② 画数の差が大きく、文字組みしたとき濃度のばらつきが顕著
③ 明確なベースラインの役割をもつものが存在しない(フォントプログラム上では存在する)ため、揃えの基準が囲み「字面枠」の正方形が基準にならざるを得ず、並べると文字の両サイドの空間が不揃いになる
ことで、和文は少し手を加えないと揃って見えないという、宿命的な欠点があります。
これは、和文が、直線的な「漢字」、曲線的な「ひらがな」、直線的・鋭角的な「カタカナ」と、本来相容れないはずの3種類が混在するという、世界的にも類をみない文字種で構成されているからです。
欧文には、図のように大文字と小文字の下のラインがベースラインと呼ばれています。このラインがすべての基準になっていますし、書体デザインには必要不可欠のラインです。
和文は、横組みでは欧文との混在を考えた便宜上のライン(アセンダーとデセンダーの境目:慣習的にボディの下のラインから上に120em上がったところに設定されることが多い)、縦組ではボディの左右の中心に位置します。
いずれもフォントプログラム上必要なものというだけで、書体デザインの上では、デザイナーはこの両ラインを意識してグリフを作ることはまずありません。
ただし、組み込み用の欧文フォントをデザインする際は、当然横組み用のベースラインは意識しますが、上記の位置(ボディの下のラインから上に120em上がったところ)を基準にデザインするかどうかは、書体デザイナーの解釈によって違うようです。
ちなみに、私は、120emを意識して組み込み欧文は作りません。なぜなら、「和文」を作っているのに、欧文の便宜上のベースラインに囚われたくないので…。
1.5.3 ●空間に左右される文字の大きさ
さらに、サイズが、漢字>ひらがな>カタカナの順に小さくなっており、これもばらつきの原因になっています。ただ、これは文字の構造上そうせざるを得ないのです。ひらがな・カタカナを漢字並みのサイズにすると漢字より大きく見えるからです。
なぜか。それは、画数の差によるのです。ひらがなは「な・ほ・ゑ」の5角、カタカナは「ネ・ホ・ヰ」の4角が最大(濁点・半濁点は除く)で、ほとんどの漢字はそれを上まわります。
人間が感じる「大きさ」は、包み込んでいる空間の量と密接な関係があります。空間(ホワイトスペース)が多い(画数が少ない)と、開放的になりその文字は大きく見え、空間が少ない(画数が多い)と閉鎖的になり小さく見えます。なぜそう見えるのかは、理屈で説明できても、科学的には解明されていないのだそうです。(奥が深い!)でも、そうなのです。
したがって、画数の多い漢字は、一部を除いて字面枠いっぱいに作られ、ひらがなは少し小さめに作られます。そしてカタカナの順に小さくなっていきます。このサイズの違いは、書体デザイナーの感性で決められていきますが、突き詰めると、微妙な空間力学的な力に左右されているといっても過言ではありません。
1.5.4 ●ひらがなとカタカナの駆け引き
ひらがなは、カタカナと比べ、一筆書きのように丸みを帯びた長い線が多いのが特徴です。丸い形状は、閉じるか、それに近い形になると閉鎖的になるので、画数が少ない割には小さくまとまって見えてしまいます。ですので、カタカナよりやや大きく作ります。
カタカナは、単純な線、短い線が多く空間がより多いので、さらに大きく見えます。したがって、ひらがなよりやや小さく作らないと、揃って見えないのです。この辺のひらがなとの駆け引きは正直、大変難しいものがあります。
先ほど、「明確なベースラインが存在しない」といいましたが、こんなごちゃごちゃな状態なので、基準となるベースラインは存在しようがないのです。
日本の文字って、大変でしょ。書体デザイナーは苦労が絶えないのであります。(でも、大好きですけど…)
1.5.5 ●和文の宿命的な欠点は、本然的な長所でもある
海外のデザインが非常に洗練されて見えるのは、単にアルファベットの格好良さだけにあるのではありません。もともと揃って見える単純な形状と優れたデザイン性を文字自体が兼ね備え持っているからなのです。
しかし、宿命的な欠点をもつ和文も、揃え処理を適切に行うことで、欧文を超える美しいデザイン要素になります。欧文にはない多様性と、独特な雰囲気を持った心地よいリズムが生まれるからです。それを具体的に行っていくのが、次章 “タイポグラフィ7つのルール その❷ 和文の美しさのカギは「つめる」こと” でお話しするデザイン処理になります。
● ● ●
次回(第3回)は、実技編。代表的な、行頭揃え・中心揃え・行末揃えについて、特に行頭揃えを中心にお話しします。予告下ページャ[3]のクリックを。
第3回予告 | 1.6 行頭揃えで注意すること |
1.7 欧文が混在する場合の行頭揃え | |
1.8 欧文だけの行頭揃え | |
1.9 厄介な行末揃えでの句読点処理 | |
1.10 中心揃えでの句読点処理 |
この記事へのコメントはありません。