前回は、Illustrator の[カーニング]といわれる働きをご紹介しました。[カーニング]が文字の個々のアキを調整するのに対して、今回の[トラッキング]と[文字ツメ]は集合体としての文字に均等に詰めていく働きがあります。
よくよく気をつけないと、違いを見落としがちの機能ですが、それぞれおもしろい働きがあります。それを探っていきましょう。
第2回:通算第6回 もくじ |
2.2 和文の詰め処理 2.2.2 ❷文字列全体を均等に詰める(広げる)機能[トラッキング] 2.2.3 ❸文字の両側をパーセンテージ単位で詰める[文字ツメ] 2.2.4 ●入力したそのままの状態(デフォルト)の「ベタ組み」 |
2.2.2 ❷文字列全体を均等に詰める(広げる)機能[トラッキング]
[選択した文字のトラッキングを設定]:「字送り」のこと。単位は em。
プルダウンメニューで出てくる数値、たとえば[-25]は、指定した文字の「マイナス25/1000em」ということ。
❶の[カーニング]が一文字ひともじの字間に適用するのに対して、文章など、集合体としての文字列全体に均等に適用します。(一文字単位でも詰まりますが、意味があまりないのでは…)
文字の右側(縦組みの場合は下側)のみ詰めたり広げたりします。
[トラッキング]は、均等に詰めたり広げたりすることから、文章のように長くボリュームのあるものに適しています。特に均等に詰められるので、わずかに詰めると、独特の緊張感が生まれデザインが締まります。(手動写植機時代は、これを「1歯(いっぱ)詰め」と呼んで、デザイン現場では当たり前に使われていました)
なお、ウェブページで、letter-spacing を使用して文字間を空けて文章を構成しているのをよく見かけます。これは、見にくいだけで得はないので、やめるべきでしょう。また、逆にプロポーショナルフォントで詰まっているのも見かけますが、こちらはもっと見にくい。ウェブページは等幅フォント、monospace にするべきと私は思います。
写真植字機(写植機)の時代にできた単位。1歯(通常は1Hと表記)は0.25mm。「歯」という表現は、手動写植機の部品の一部、ラチェット(歯車)から由来します。ラチェットは、印画紙がセットされたマガジンを、指定された文字の級数(Qと表記:1Qは1Hと同じ0.25mm)分を移動させる役割がありました。
つまり、10Qであれば、歯車の歯数10個分ということになります。ですから、「1歯詰め」は、10Q(10H=2.5mm角)の場合だと「9H=2.25mm」で送る(字送り)ということになります。
ちなみに、「歯(H)」と「級(Q)」は、写植機が衰退した現在でも、広く印刷現場、雑誌の編集現場、デザイン現場でデファクトスタンダードとして使用されています。
2.2.3 ❸文字の両側をパーセンテージ単位で詰める[文字ツメ]
文字通り「文字詰め」。単位は%。1文字単位で詰められます。
文字の両側が詰まります。役割としては、トラッキングとほぼ同じです。大きく違うのは、広げることができないということ。(文字ツメという名前がついているので、当たり前といえば当たり前ですが…)
また、基本が[オプティカル]風の考えかたになっていること。ただし、[オプティカル]のようにサイドベアリングは考慮されていません。[100%]を選択すると、文字間が完全に「0」になります。つまり、「[オプティカル]風の考えかたで算出された、純粋な文字間の数値」の「何%」を詰めますよ、ということになります。ですから、単位をemにはできないのです。
ちなみに、[トラッキング]は、最大の[-100]にすると、字面枠の大きな書体(たとえば新ゴなど)は重なる文字がでてきますが、[文字ツメ]は[100%]にしても重なることはありません。
「ベタ」組み、[トラッキング]、[文字ツメ]は、比べてみれば一目瞭然である。
[トラッキング]は、均等に詰まっていくので、数値を大きくすれば、重なる文字がでてくる。字面枠の大きな書体(たとえば「新ゴ」)であれば、より顕著になる。
対して[文字ツメ]は、[100%]以上の設定値はないので、絶対に重ならない。
効果としては、[トラッキング]と見た目はほとんど変わらないので、いわゆる「1歯(いっぱ)詰め」もできます。(厳密には均等の「1歯」詰めにはなりませんが)[トラッキング]、[文字ツメ]、どちらを使うかは、個人の好みになると思うので、どちらが推奨とはいえません。しかし、何十行にもなる長文には[トラッキング]、短めの文章には[文字ツメ]が適しているのは事実のようです。
なお、和文の文章組みをする際は、テキストボックスを作りその中に文章を流し込むこと、また、[均等配置/最終行左揃え]が大前提になります。和文は行頭(行の始まり)と行末(行の終わり)が揃っている必要があるからです。(これ、結構『大事なこと』をいっています)
数字や英文が混在していない、純然たる和文を[均等配置/最終行左揃え]にしない場合(デフォルトの[左揃え]で組んだ場合)、[トラッキング]は行末が揃いますが、[文字ツメ]は揃いません。
(figure2-17)では、[トラッキング]は[−30]、[文字ツメ]は[25%]を適用しています。
[トラッキング]は、すべての文字が均等に詰まる(広がる)ので、横幅がすべて正方形の和文は、当然ながらデフォルトの[左揃え]でも行末が揃います。しかし、いまどき、横幅が文字によって異なる、数字や英文が混ざらない文章などほとんどあり得ないので、[左揃え]ではダメなのです。
ましてや、[文字ツメ]は、一文字ひともじ詰まりかたが異なるので、[左揃え]では、100%行末が揃いません。
ですので、和文はどうしても[均等配置/最終行左揃え]で組まなければならないのです。
前述した『大事なこと』の詳細は “タイポグラフィ7つのルール その❻ 細心の注意を払うべき大切な「くむ」こと” の章でお話しすることになります。
ウィンドウ>書式>段落
2.2.4 ●入力したそのままの状態(デフォルト)の「ベタ組み」
[和文等幅]や[0]で文章を組むこと。詰め組みの逆。
ここまでさんざん詰め組みについてお話をしてきました。だから、「こいつはベタ組み否定派なんだ」と思われるでしょうが、そんなことはありません。文字を使うこと、文章を組むことに正解はないように思います。それは、デザイナー個人の好みや、クライアントの好みが反映されるからです。
だから、私もベタ組みはよく使用します。特に、縦組みでは。ただ、見出し類は100%ベタ組みをしませんが…。
要は、いかに見やすく、内容を正確に伝えるかが大事なのであって、必ずしも[カーニング]や[トラッキング]がどうのこうのというものに囚われてはならないというのが、私の見解です。
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次回(第3回:通算第7回)は、欧文の詰め処理についてお話しします。予告下ページャ[3]のをクリックを。
第3回:通算第7回 予告 |
2.3 欧文の詰め処理 |
ですので「[自動(メトリクス)]を使わなくても、この[プロポーショナルメトリクス]にチェックを入れると、同じように詰まる。」という部分も間違っています。
コメントありがとうございます。
ご指摘のとおりですね。この部分削除しました。
ありがとうございました。
メトリクス(自動)とプロポーショナルメトリクスの違いは「誤差」ではありません。
メトリクス(自動)は「プロポーショナルメトリクス」と「(ペア)カーニング」を同時に発動する機能です。
ところが、手動でカーニングを(さらに)調整すると、
カーソル直前の文字の「プロポーショナルメトリクス」が外れるということになります。
なので、意図せぬ部分が「開く」のです。
端物で、文字数の少ないキャッチやリードならおっしゃることもわかりますが、目的や一度に読む文字量をはっきりさせず、ただ詰めろ詰めろというのは誤解を招くと思います。
やたらとなんでも詰めたがるデザイナーもどきには辟易しています。
コメントありがとうございます。
おっしゃることはよく分かります。ただ、「文字数の比較的少ないグラフィック作品」と申し上げていると思いますが…。
なんでもかんでも詰めるのは、私もすすめているわけではありません。
考え方は、中嶋さんと違わないと思っております。拙い文章で、真意を伝えることができず、申し訳ありません。
手ヅメの数値設定はそこではありません…ふたつ下の「テキスト」の「トラッキング」の項目のハズ。
「トラッキング」とはなっていますが「カーニング」も共通しています。
文字あるいは文字列を選択して反転していれば「トラッキング」、
カーソルを字間に置いているだけなら「カーニング」がその設定値に応じて変更されます。
また、「和文等幅」と「0」では異なります。
「和文等幅」では欧文の「(ペア)カーニング」は発動しますが、
「0」ではそれも発動しません。
コメントありがとうございました。
誤認がありました。オブジェクトやパスの移動と混同していました。初歩的なミスでした。
また、和文等幅と「0」については、書き忘れました。
いずれも記事は書き直しました。
大変申し訳ありませんでした。