書体の選びかたでデザインが劇的に変わる。書体の性格を知ろう。書体選定に役立つ、書体の表情を知るための12+1のチェックポイント

TYPOGRAPHY SERIES 2

書体選定に役立つ、書体の表情を知るための12+1のチェックポイント

Typography Series2 書体の性格を知ろう。■総論

書体のことを「タイプフェイス」と呼ぶことがあります。「タイプフェイス」とは「文字のかたち」のことを指すので、ほぼ「書体」と同義語と思っていいでしょう。また「タイプフェイス」は広義には「文字の性格・表情」を表すともいえます。

人の顔に表情がそれぞれあるように、書体にも、その書体に備わった表情があります。しかし、人の顔のように特徴がはっきりしていないので、一見するだけではわかりづらいのも確かです。

デザインを始めたばかりのかたが異口同音にいうことがあります。「明朝体やゴシック体の差くらいはわかるけど、明朝などの書体は、みんな同じに見えてどう違うのかわからない」というもの。その悩みは解消しなければなりません。これからのデザインワークに大きな支障をきたすからです。

本稿では、代表的でありながら、多数の書体が存在するために表情の判別がしづらい「明朝体」と「ゴシック体」について考察していきます。それぞれの代表的な5書体を比較しながらお話しをすすめましょう。この5書体は「伝統的」「中庸的」「現代的」意味合いを持った書体たちです。比較すると、その差がよくわかると思います。

ただ、「表情」という概念は、多分に主観的なもので、個人的な好みや感じかたが反映されます。これはあくまで、私の感じかたであり、普遍的なものではないことを、あらかじめお断りしておきます。

もくじ 1 「伝統的」「現代的」はどこで判断するのか?
  1.1 ●毛筆と平筆の差
  1.2 ●起筆と収筆を見てみる
  1.3 ●送筆のかたち
  1.4 ●小口(切り口・角)のかたち、そして「墨だまり」
  1.5 ●ボディ(仮想ボディ)と字面枠の関係
  1.6 ●左はらいと右はらいのサイズと曲線度
  1.7 ●伸びやかさと窮屈さ
  1.8 ●跳ねの丸み
  1.9 ●ふところの広さと狭さ
  1.10 ●ひらがな・カタカナの大きさ
  1.11 ●両仮名の肥満度
  1.12 ●両仮名の横画の角度
  1.13 ●制作年代とは無関係
2 さまざまな見かたは「伝統的・現代的」から派生したもの

(figure1)
書体には「伝統的」「中庸的」「現代的」書体がある(漢字)
(figure2)
書体には「伝統的」「中庸的」「現代的」書体がある(ひらがな)

1 「伝統的」「現代的」はどこで判断するのか?

書体を表現するのによく使われる対比した呼びかたに、「伝統的」書体や「現代的」書体があります。この「伝統的・現代的」とはどのようなことなのか。何をもってそう呼ぶのかを一つひとつ考えていきましょう。

1.1 ●毛筆と平筆の差

和文書体の源流は毛筆書体です。特に「明朝体」は、中国宋の時代に、楷書を木版印刷に適した形状に直線化し、整理していった過程ででき上がっていったもので、明の時代に定着したものといわれています。したがって、各部位は毛筆の筆致が色濃く残っています。

「伝統的」形状といわれる書体は、毛筆の筆勢をしっかりと踏まえたかたちをしています。それに対して、「現代的」形状の書体は、毛筆の筆勢は影を潜め、ペンや平筆で書いたようなかたちをしています。これは、「明朝体」「ゴシック体」ともに共通しています。

(figure3)
「伝統的」書体は毛筆の筆勢、「現代的」書体はペンや平筆の筆勢

多少の語弊はあるかと思いますが、私は、「伝統的」書体=毛筆(曲線的)、「現代的」書体=平筆(直線的)でそれぞれ書いたものと表現しています。

毛筆と平筆

1.2 ●起筆と収筆を見てみる

書道の楷書書法は、起筆・送筆・収筆(終筆)という一連の流れ(筆脈)が基準になっています。これを三過節または三過折と呼んでいます。書道家のかたからは表現が違うとお叱りを受けるかも知れませんが、「トン」と置き「スーッ」と引いて、「ギュッ」と止める(あるいは跳ねる)という書きかた。

三過節の筆勢が顕著に表れるのが「起筆」と「収筆」です。このかたちが丸みを帯びていて、毛筆に近いものが「伝統的」、線が整理され鋭角的になっているのが「現代的」書体といえます。

1.3 ●送筆のかたち

楷書書法での三過節の中で、唯一力を抜く「送筆」は、当然ながら「起筆」「収筆」よりも細くなります。その筆勢を忠実に表現し、中心がやや細くデザインされているのが「伝統的」書体。この独特の抑揚がなく、太さが均一、あるいはそれに近いものが「現代的」書体といえます。

(figure4)
楷書書法での三過節は起筆・送筆・収筆の筆脈(明朝体)

(figure4)(明朝体)の解説

起筆・送筆・収筆の特徴がもっとも顕著にでるのが「縦画」。これは、明朝体、ゴシック体ともに共通している。図では起筆部分をブルー、収筆部分をピンク、送筆部分はあえて省略してみた。

書体デザイナーが、書体(特に明朝体、ゴシック体)をデザインする上で、一番気を遣い、こだわりを見せるのが起筆と収筆。
この5種類の中では、「A1明朝」が最も毛筆体に近い形をしている。起筆の右側の突起(コブ)は、横画収筆の三角形(ウロコ)と共にすべての明朝書体に共通した独特の形状である。

この突起は筆を「トン」と置いた形の名残である。「伝統的」書体は丸みを帯びて曲線的であるが、突起の上辺の角度が「現代的」書体になるにつれて浅くなっていく。また、丸みや抑揚もなくなり、素っ気ないものになる。

収筆は、緩やかな曲線で丸みが強い「伝統的」書体に対し、「現代的」書体は、丸みはあるものの、直線的である。

そして送筆。起筆・収筆をくっつけると、より違いがはっきりすると思う。

「伝統的」書体の「A1明朝」「筑紫B見出しミン」、「中庸的」書体の「リュウミン」は、送筆部分が細くなっているのがわかる。さらに、『切り口』が交わらない。これは、起筆よりも収筆のほうがやや力が強いため、収筆に近づくにつれて太さが増すためである。この3書体は、毛筆の特徴をよく捉えている。この3書体に「安定感」があるのは、収筆が太いからである。

対して、「現代的」書体の「ヒラギノ明朝」はやや送筆を細くしているものの、先の3書体ほどではない。「小塚明朝」は完全な直線。また、切り口は完全に交わっている。これは収筆に向かう力を省略したということ。「伝統的」書体と並べるとやはり安定感に欠ける。

(figure5)
楷書書法での三過節は起筆・送筆・収筆の筆脈(ゴシック体)

(figure5)(ゴシック体)の解説

ほとんどのゴシック書体で縦画・左はらいおよび跳ね上げの起筆に明朝体と同じような突起(コブ)がある。游ゴシックとセザンヌは丸みを帯びた抑揚がある美しい形をしているが、「中庸的」書体の「ゴシックMB101」はだいぶ線が整理されている。「現代的」書体の「小塚ゴシック」は更に鋭角的に整理され、「AXIS」に至っては突起が完全になくなり上辺の角度も90度になっている。

収筆は、どれも目立った特徴はない。「伝統的」書体は、すべてではないが、小口(角)を丸くする傾向がある。「游ゴシック」は一部箇所を除き、小口にアールをつけている。

送筆は「伝統的」書体の「游ゴシック」・「セザンヌ」はやや細くなっているが、明朝ほど目立ってはいない。あまり強調すると野暮ったくなるのだ。「セザンヌ」は収筆に向けてだんだん太くなっている。「ゴシックMB101」も同様だが、「セザンヌ」ほどではない。
「現代的」書体の「小塚ゴシック」・「AXIS」は、完全に直線である。

1.4 ●小口(切り口・角)のかたち、そして「墨だまり」

線画の角(かど)、あるいは先端(明朝体やゴシック体の「はらい」などの先端)が丸みを帯びているものが「伝統的」書体。ナイフで切ったようにエッジが立っているものが「現代的」書体ということができます。

(figure6)
線画の角や先端に「伝統的」「現代的」の特徴が表れる

(figure6)(明朝体)の解説

「伝統的」書体の「A1明朝」・「筑紫B見出しミン」は、左はらい、右はらいの先端が丸く処理されているのがわかるだろうか。このような書体はおおむね「伝統的」書体といってよい。「A1明朝」は、その他に縦画と横画の交差する部位に『墨だまり』と呼ばれる独特の丸い処理がしてある。『墨だまり』については後述する。

「中庸的」書体の「リュウミン」以降は、小口をスパッと刃物で切ったようにエッジが立っている。もちろん例外もある。「ヒラギノ明朝」の右はらいの下辺は丸みを持たせている。これは作者のデザイン方針。しかし、総合的に見て「現代的」書体はおおむね小口の形状がシャープになっている。

左はらい、右はらいの先端に代表される鋭角(とんがっている)部分を丸くしたり、スパッと刃物で切ったような処理をしているのは、①角度が一定の基準以下になった場合に適用するという、デザイン方針 ②とんがったままフォントプログラムをすると、形状が崩れる恐れがある、プログラム上の配慮 の理由からである。

なお、ゴシック体については、少し見づらいかもしれないが、figure5 を参照して欲しい。

(figure7)
「A1明朝」にみられる『墨だまり』

(figure7)の解説

「伝統的」書体の2種類を並べてみた。「A1明朝」は『墨だまり』がある数少ない書体。縦画・横画・左はらい・右はらいのそれぞれの交点が丸く処理されている。「筑紫B見出しミン」は、『墨だまり』はないが、全体的に丸みを帯びた流麗なフォルムになっている。

『墨だまり』とは?

活字を使った活版印刷では、活字にインクを塗り、その上に置いた紙に適度な圧力を加えインクを写しとる。その際に、文字の輪郭にマージナルゾーンと呼ばれるわずかな滲みができる(インクの盛り過ぎや圧力のかけ過ぎが原因)。凸面の文字の部分にのったインクが圧力の加え過ぎで押しつぶされて、周囲にはみ出る。これが『墨だまり』といわれる現象である。その結果、縦画と横画の交差する部分はより余計にインクがたまり、丸くなる。

写植の場合は、正確には「滲み」あるいは写真用語の「被り(かぶり)」といったほうが適切かも知れない。この「滲み・被り」は、「A1明朝(写植時代の呼称は太明朝体A1)」だけに起きたことではなく、すべての書体に起きた共通現象である。

写植の原理は簡単にいうと次の通り。光源ランプで発生した光が、文字盤(2枚の透明なガラスに文字部分が透明のネガフィルムをサンドイッチしたもの)を通り、指定したQ数(文字サイズ:1Qは0.25mm)のレンズで大きさを決められ、マガジンの中にセットした印画紙に印字される、というもの。アナログカメラと同じ原理だ。被写体が文字盤だというだけの違いである。(この後、現像という必須作業がある)

光を使用する以上、印画紙に印字され、現像された文字のエッジは初めからボケている。つまりわずかな「被り」がある状態。活版でいうマージナルゾーンである。結果、縦画と横画の交差する部分は丸くなる。

この「墨だまり」が表現されているものは「伝統的」書体である。モリサワの「A1明朝」は、『墨だまり』のある、大変美しい「伝統的」書体として有名だが、デジタルフォントにした際、手を加えすぎて妙にわざとらしいものに…。用途は限られたものになってしまった感がある。

1.5 ●ボディ(仮想ボディ)と字面枠の関係

ここから「1.7 伸びやかさと窮屈さ」までは、それぞれが密接な関係にあります。和文書体は1000em四方の正方形に収められていますが、この中には、グリフ(文字形状)とサイドベアリング(文字間スペース)が内包されています。

グリフ部分が実際に入っているスペースを「字面枠」と呼びますが、「伝統的」書体は、これが小さめにできています。つまり、ボディよりもかなり小さいのです。それに対して、ボディに迫るように「字面枠」が大きめに設計されているのが「現代的」書体といえます。

なお、字面枠のサイズは、作者やベンダーが発表しているわけではなく、あくまで私が、複数の漢字を見て判断したサイズです。ですので、正解には限りなく近いはずですが、正確なものではありません。

(figure8)
こんなにも違う「伝統的」と「現代的」書体の字面枠

ただ、皆さんがわざわざ字面枠サイズを見つけだすというのも現実的ではありませんね。ですので、実際に同じ文面で組み見本を見比べたほうがよほどわかりやすいと思い図にしてみました。

(figure9)
一目でわかる「伝統的」と「現代的」書体の字面サイズ(明朝体)
(figure10)
一目でわかる「伝統的」と「現代的」書体の字面サイズ(ゴシック体)

明朝体、ゴシック体に共通することですが、「中庸的」書体になると、とたんに文字が大きくなったように感じませんか? 一番大きな理由は、字面(字面枠)が大きくなったことですが、他にもいくつか理由があります。それは後ほど。この見本でわかること、それは「伝統的」書体は字面が小さく、「中庸的・現代的」書体は字面が大きいということです。

1.6 ●左はらいと右はらいのサイズと曲線度

一般的な大多数の漢字は、「字面枠」内にきちんと納められています。ただ、「左はらい」と「右はらい」を含む文字もたくさんあります。この「両はらい」は「字面枠」内に収めようとすると、目の錯覚で押しくらまんじゅうの中にいる人のように見えてしまいます。ですので、「字面枠」の外に、はみだしてデザインされています。

(figure11)
両はらいの位置の実験

(figure11)の解説

「伝統的」書体は、「両はらい」が伸びやかで字面枠から大きくはみ出す傾向がある。「A1明朝」、「筑紫B見出しミン」でちょっとした実験をしてみた。上段はデフォルト、下段はアウトラインをとり、字面枠内に無理に押し込める加工をしてある。両方ともバランスに優れた書体なので、違和感は感じないが、やはり下段のほうが窮屈な漢字がする。皆さんにはどう映るだろうか? 

なお、ボディ枠・字面枠があると違いがわかりづらいので、限りなく薄くしてある。また、はみ出す度合いの小さい「中庸的」「現代的」書体は、figure12で示すとおり意味がないので図示していない。

(figure12)
両はらいのでっぱり具合で「伝統的」と「現代的」の判別ができる

(figure12)の解説

それぞれの拡大図を示した。「伝統的」の2書体は「左・右はらい」ともに字面枠からはみ出ている。「右はらい」は「中庸的」「現代的」書体もはみ出してはいるが、度合いは小さい。

フォントワークスの「筑紫アンティーク明朝」は、これがかなり誇張されたデザインで有名です。Large Style と Small Style の2種類があり、Large Style はボディすらはみだしている文字種も数多くあります。とても伸びやかで素晴らしい書体だと思います。鬼才・藤田重信氏の作品。

(figure13)
筑紫アンティーク明朝に顕著な両はらいの伸びやかさ

このはみだし加減の多さに反比例して、字面枠は小さくなります。「伝統的」書体の「字面・字面枠」の小ささはここに原因があります。さらに、「伝統的」書体はこの「両はらい」の曲線度が大きくしなやかなのが特徴。「現代的」書体は、より直線的になっていきます。なお、この特徴は、明朝体に顕著です。

1.7 ●伸びやかさと窮屈さ

前項「1.6」で「筑紫アンティーク明朝」にふれましたが、書体の自由闊達さ、伸びやかさは「左はらい」と「右はらい」の大胆さによるところが大です。

「右はらい」収筆部分(三角形)の頂点(天地が逆転していますが)の角度が90度より広いと「伸びやかさ」が強くなり、より毛筆的な雰囲気がでます。(ゴシック体の場合は「左はらい」も同様)つまり、「伝統的」書体ということになります。

対して「現代的」書体は、この角度が90度近辺かそれより狭く(ウェイトにもよります)、窮屈に見えます。可読性重視で「字面枠」を大きくしたことによる『かたちの崩れ』がここに起きています。

(figure14)
「右はらい」収筆部分(三角形)の頂点の角度

これが顕著なのがモリサワの「新ゴ」。どの書体もウェイトが上がるにつれて字面枠は少しずつ大きくなっていきます。しかし「新ゴ」はその度合いが大きく、「R」ウェイトの段階で、すでに十分大きな字面枠が、「U」ウェイトになるとボディとほぼ同じ大きさになります。その代償として、グリフをボディからはみださせないため、両はらいの角度がどんどん90度から遠ざかって狭くなっていきます。

(figure15)
新ゴは、はらいの角度が極端に狭い

ただし、総体的にゴシック体はこの〔法則〕が必ずしも適用されません。これは、小口を原則的に直角(90度)にするというゴシック体のフォルムに原因があります。特に「セザンヌ」の漢字は、「伝統的」書体の色が強いのに角度が90度より狭くなっています。「セザンヌ」は字面枠がかなり小さく、その枠内になるべく収めるような設計思想があったのかも知れません。(両仮名は普通に90度より広くなっています)

また、特に明朝体の特徴、横画の起筆の角度は、はらいの角度にほぼ比例します。「伝統的」書体は角度が90度より広く、「現代的」書体は、角度が90度に近くなります。「小塚明朝」は、他の4書体に共通している起筆のふくらみもなくなっています。

(figure16)
明朝の横画起筆の角度

1.8 ●跳ねの丸み

跳ねのかたちも、伸びやかさに影響します。「伝統的」書体は、跳ねが丸みを帯びて角度がやや浅いですが、「現代的」書体は
直線的で丸みが少なく直角に曲がっている感が強くなります。

(figure17)
跳ねの形状は「伝統的」と「現代的」ではかなり違う

1.9 ●ふところの広さと狭さ

ふところとは、主に画線同士が交わってできる内側の空間をさします。ここが「伝統的」書体は、総体的に狭いのが特徴です。これは、ふところを広くとらない毛筆の筆勢を忠実に引き継いでいるからです。「現代的」書体は、これが広めにデザインされています。ふところが狭いと引き締まった印象を、広いとおおらかな印象を与えます。

(figure18)
「現代的」書体になるほどふところは広くなる

1.10 ●ひらがな・カタカナの大きさ

ふところのサイズが大きく原因していますが、「伝統的」書体は、漢字よりひらがな、ひらがなよりカタカナがより小さく設計されています(figure9・10参照)。こぢんまりしているんですね。ただ、これにはきちんとした理由があります。

「現代的」書体は、漢字に迫る大きさになっているものが多いです。これは、横組みを意識した設計になっているからですが、だからといって、必ずしも可読性が優れているとはいえない、大きな矛盾をかかえています。

人は文章を、漢字・ひらがな・カタカナ・字面の大小のメリハリなどを無意識に感じて、それぞれを識別しながら読んでいきます。ですので、両仮名が大きいとその識別能力が阻害され、脳も目も疲れ、可読性は劣るのです。

1.11 ●両仮名の肥満度

前項「1.10」で「横組みを意識した設計」ということにふれましたが、文章の70%を占めるといわれるひらがなは「伝統的」書体では、「縦長」の文字種が圧倒的多数です。この書体で横組みの文章を組むと、文字間が空きすぎて、読みづらいのです。「伝統的」書体は横組みには向きません。「現代的」書体には、これを解消するためにつくられたものが多いようです。

すなわち、本来縦長の文字種を、無理やり正方形に近づけるために横幅を広くしているのです。つまり、均整のとれた、健康優良児を肥満児に仕立て上げたのが「現代的」書体といえなくもありません。結果的に、文字種個々の美しさを犠牲にせざるを得ないのです。

(figure19)
「現代的」書体は、美しさを犠牲にして成り立っている

(figure19)の解説

明朝体は「A1明朝」、ゴシック体は「游ゴシック体」を基準に、字面の横幅比較をしてみた。目視でも十分「中庸的・現代的」書体の「横幅」が広いのがわかるが、より鮮明にするために赤線を引いた。

本来、縦長の形状をしているはずの「り」「と」「う」の横幅が「中庸的・現代的」書体では広くなっている。それに呼応するように、本来正方形に近い形状の「あ」「か」の横幅も広がっている。

1.12 ●両仮名の横画の角度

毛筆の筆勢は、その書法の性格上、必ず右肩上がりになります。それを引き継いでいる「伝統的」書体の両仮名は、わずかに横画が右肩上がりになっています。対して、「現代的」書体は、ほとんどが水平に近いか、まったく水平にデザインされています。特にゴシック体に顕著です。

(figure20)
横画の角度は「現代的」書体になるほど水平になる

1.13 ●制作年代とは無関係

2017年11月28日、アドビは、「かわいくもあやしい」をコンセプトにした「貂明朝(てんみんちょう)」を発表しました。これは、同社 Typekit 日本語タイポグラフィ チーフタイプデザイナー・西塚涼子氏の作品。
この書体は同女史の独自の解釈を反映しているとはいえ、典型的な「伝統的」書体といえます。

(figure21)
貂明朝の組み見本

時代的背景は無視できませんが、フォントの形状は、デザインする書体作家の考えかたが映し出されるもので、必ずしも時代・年代に左右されるものではありません。

2 さまざまな見かたは「伝統的・現代的」から派生したもの

「伝統的」「現代的」の他にも、「堅い・柔らかい」、「硬い・軟らかい」、「強い・弱い」、「重い・軽い」、「明るい・暗い」、「フォーマル・カジュアル」などの対比がありますが、いずれも見る方向が違うだけで、「伝統的」「現代的」対比から派生したものだといえるでしょう。

また、ウェイトによっても表情は変わります。明朝体・ゴシック体は、その用途の広さから多ウェイトの書体が多く、ウェイトによって「繊細さ」の度合いや「力強さ」の度合いは違ってきます。ゴシック体は明朝体に比べ一般的な概念では「力強い」書体ですが、細いウェイトのゴシック体と太いウェイトの明朝体とでは、その見えかたは逆転します。

この法則性を頭に入れ、連想力を働かせて賢明な書体選定の判断をしてください。

さまざまな条件によって、見えかたは変わります。このように幾重にも重なった分析をしていけば、書体の選定も難しいものではなくなります。適切な書体選定は、連想力・想像(創造)力の世界であり、タイポグラフィの最重要課題なのです。

あとがき

タイポグラフィシリーズ第2部を開始しました。まず、総論を述べてみました。次回からは、各論として、私のフォントライブラリーから、私のお気に入り(そうでないものもある)フォントを1書体ずつ紹介していきます。

内容は、内容は、①書体名・ウェイト名 ②販売フォントベンダ ③書体の作者または代表者 ④書体の表情 ⑤書体の用途 ⑥メーカー・開発者の書体説明 ⑦書体の組見本 ⑧書体の私見・感想
となっています。

不定期の掲載になります。どうぞご容赦を。

書体の性格
もくじ
1 書体の選びかたでデザインが劇的に変わる。書体の性格を知ろう
  ●書体選定に役立つ、書体の表情を知るための12+1のチェックポイント
2 書体の表情
  1 ●この書体を使えば失敗はほとんどない=ゴシックMB101
  2 ●この書体を見ない日は、まずあり得ない=リュウミン
  3 ●正統派なのにどこか素朴であたたかい=セザンヌ
  4 ●おおらかさの中に風格が漂う=筑紫B見出ミン-E
  5 ●どのウェイトのどの文字種もほぼ完璧=游ゴシック体
  6 ●ワンポイントに独特の雰囲気を醸し出す=A1明朝
  7 ●普遍的なしっかりとした力を持っている=AXIS
  8 ●藤沢周平の小説を組むために作られたという=游明朝体
  9 ●macOSやiOSに標準搭載されている=ヒラギノ角ゴ
  10 ●現代的と伝統的の不思議なコラボ=ヒラギノ明朝
  11 ●好き嫌いがはっきり分かれる=小塚ゴシック
  12 ●作者の文字への情熱がほとばしる=小塚明朝

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