この章も終わりに近づきました。
前回は、欧文の詰め処理について、考察してきました。今回は、同じ和文でも、ここまで違うということを、詰め処理の観点からお話ししていきます。和文の奥深さを感じ取っていただければ、と思います。
第4回:通算第8回 もくじ |
2.4 詰めてはいけない和文書体もある |
2.5 [自動(メトリクス)]だけで済まない書体もある |
2.4 詰めてはいけない和文書体もある
グラフィックでは、基本的に文章も詰めたほうが良いのですが、詰めてはいけない、あるいは詰めないほうが良い書体もあります。具体的には、モリサワの「新ゴ」、フォントワークスの「ニューロダン」に代表される、新しい感覚で作られたゴシック系の書体です。
なぜか。それは、
① 字面枠が大きいから ② ひらがな、カタカナのふところが大きく、字面枠いっぱいに設計されていて、漢字に迫るサイズになっている |
からです。
字面枠が大きいと、ボディ(仮想ボディ)との距離が近いので、サイドベアリングが少なくなります。つまり、一文字ひともじの間が狭いのです。また、ひらがな、カタカナのふところが大きいのは、必然的に漢字に迫る大きさになるということ。
全体的に作りが大きく、詰めるには不向きな書体です。7Q~11Q くらいで使用する場合、[トラッキング]で[+10~20]程度広げる必要もあるかもしれません。ただし、見出しに使う場合は、話は別です。「適切」に詰める必要はあるでしょう。
2.5 [自動(メトリクス)]だけで済まない書体もある
現代的デザインの「新ゴ」や「ニューロダン」と対極をなす、字面枠の小さな伝統的書体の代表格にフォントワークスの「セザンヌ」、字游工房の「游ゴシック」があります。これらの書体は、伝統美といってよい美しい文字形状をしています。
伝統的な形状の書体は、明朝体、ゴシック体、毛筆体を問わずおおむね次のような特徴をもっています。
① 字面枠が小さい ② 漢字部首の両払い(左払い・右払い)が伸びやかで先端が鋭角 ③ ひらがな、カタカナの作りが漢字に比べて、かなり小さい ④ 起筆に、明朝風の出っ張りがある(ゴシック体の場合) ⑤ 部首を構成する矩形の起筆、終筆が太くなっている |
字面枠が小さいと、それに反比例してサイドベアリングが広くなります。したがって、詰める度合いも大きくなるわけです。
形状についての詳細な考察は、この “第1部:デザインが100%うまくなるタイポグラフィ7つのルール” の続編 “第2部:書体の性格(仮題)” に譲ります。
「セザンヌ、游ゴシック」の場合は、[自動(メトリクス)]で詰めた後、さらに[トラッキング]で[-20]くらい詰めるとより美しく見えます。この措置は、明朝体の伝統的書体、モリサワの「リュウミンKS」などにも適用できます。その他、毛筆系書体全般にも適用できます。
なお、伝統的書体とは、必ずしも制作された年代が古いというわけではないことを、お断りしておきます。
KSとは「かなスモール:小がな」の意で、1982年、手動写植機用として発売された書体がこれにあたります。
KLは「かなラージ:大がな」。その名の通り仮名が大きく現代的になっています。日常的に目にする印刷物や書類の「横書き化」に対応するために開発されています。KSと比較すると、仮名がかなり大きめなのがわかります。1986年の発売と記憶しています。大がなにしてサイドベアリングが狭くなった分、横組みした場合、たしかに見やすくはなっています。
現在のデジタルフォントは、KL基準となっており、KSはKO「かなオールド」と共に、仮名フォント「リュウミンStd」として販売されています。(何でモリサワの宣伝をしているんだろう…)
リュウミンは非常に完成度の高い書体ですが、KLはKSに比べ、総体的に可読性の面ではやや劣ります。その理由は“1.5 文字形状(グリフ)の構造を知る”の中で詳しくお話ししています。
(figure2-24)
(figure2-24)のキャプション
こうして並べてみると、両仮名のサイズがかなり違うのがわかる。計測してみると、およそ4%、KLのほうが大きかった。 4%というとかなりの数値である。
この、「4%」拡大が適切なのかどうか…。私は、個人的には「3%」でよかったのではと思っている。なぜなら、天地が漢字を超えてしまっている文字がかなりあるからである。
あとがき
詰めることは、タイポグラフィ(特に和文)の最重要課題といってよいでしょう。いうは易く、行うは難し。まさに難易度の高いテクニックです。とにかく、数をこなしましょう。頭ではなく、体で覚えることが何より先決なのです。
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次回は、“タイポグラフィ7つのルール その❸ 息苦しいデザインの回避法は「あける」こと” をお話しします。ご期待ください。下の画像のクリックを!
ですので「[自動(メトリクス)]を使わなくても、この[プロポーショナルメトリクス]にチェックを入れると、同じように詰まる。」という部分も間違っています。
コメントありがとうございます。
ご指摘のとおりですね。この部分削除しました。
ありがとうございました。
メトリクス(自動)とプロポーショナルメトリクスの違いは「誤差」ではありません。
メトリクス(自動)は「プロポーショナルメトリクス」と「(ペア)カーニング」を同時に発動する機能です。
ところが、手動でカーニングを(さらに)調整すると、
カーソル直前の文字の「プロポーショナルメトリクス」が外れるということになります。
なので、意図せぬ部分が「開く」のです。
端物で、文字数の少ないキャッチやリードならおっしゃることもわかりますが、目的や一度に読む文字量をはっきりさせず、ただ詰めろ詰めろというのは誤解を招くと思います。
やたらとなんでも詰めたがるデザイナーもどきには辟易しています。
コメントありがとうございます。
おっしゃることはよく分かります。ただ、「文字数の比較的少ないグラフィック作品」と申し上げていると思いますが…。
なんでもかんでも詰めるのは、私もすすめているわけではありません。
考え方は、中嶋さんと違わないと思っております。拙い文章で、真意を伝えることができず、申し訳ありません。
手ヅメの数値設定はそこではありません…ふたつ下の「テキスト」の「トラッキング」の項目のハズ。
「トラッキング」とはなっていますが「カーニング」も共通しています。
文字あるいは文字列を選択して反転していれば「トラッキング」、
カーソルを字間に置いているだけなら「カーニング」がその設定値に応じて変更されます。
また、「和文等幅」と「0」では異なります。
「和文等幅」では欧文の「(ペア)カーニング」は発動しますが、
「0」ではそれも発動しません。
コメントありがとうございました。
誤認がありました。オブジェクトやパスの移動と混同していました。初歩的なミスでした。
また、和文等幅と「0」については、書き忘れました。
いずれも記事は書き直しました。
大変申し訳ありませんでした。