■各論編 ❼ AXIS
普遍的なしっかりとした力を持っている=AXIS
前回は、モリサワの伝統的明朝書体「A1明朝」を紹介しました。私はたまたまこの書体との縁が薄かったためほとんど使用歴はありませんが、1970年代には前身である「太明朝体A1」は、ポスターなどに盛んに使われていたようです。明朝体の中では、最も伝統的な美しい形状をした書体です。
この特集、「書体の性格」は後半に入ります。前半には「中庸的書体」のリュウミンや「伝統的書体」の「游ゴシック体」など6書体を紹介してきました。後半は「現代的書体」に入っていきます。6書体を紹介していく予定です。
今回はタイププロジェクトの代表的書体「AXIS」を取り上げます。
メーカー・開発者の説明
ベーシックは、デザインのグローバル化やエモーショナルな時代のスタイル、バイリンガル表記、そしてフォーマット上の互換性など、これからの和文コミュニケーションへのニーズが凝縮されたOpenTypeフォントです。これまでの和文フォントにはなかった極細のウエイト、ウルトラライトを含む7ウエイトを揃えた正体シリーズは、まさに「次代のデザイン提案」として最適なフォントといえます。
「AXIS Font」より引用
書体の私見・感想
●もともとは雑誌のコーポレートフォントだった
タイププロジェクト代表・鈴木功氏の作品。この書体は、もともとデザイン誌「AXIS」のリニューアルを機に紙面に全面採用されたコーポレートフォントです。当時、このような試みは珍しく、大変話題になりました。一つの雑誌をすべて1つの書体ファミリーでまかなうー、なんと贅沢なことでしょうか。その後、一般販売をされて、現在にいたっています。
私がこの書体と初めて出会ったときの印象は、普遍的なしっかりとした力を持っていながら、優しさを伴ったとてもいい書体だな、というものでした。コーポレートフォントだということを後から知り、なるほど、と納得しました。
●見出し用に使われるのを意識したUL・ELウェイト
横組みに対応するため、かなのふところを広めにとることは、多くの現代的書体に共通することですが、「AXIS」は、その処理がさりげなく控えめにされています。クセが少なく汎用性のある、非常に完成度の高い書体だと思います。
「AXIS」の大きな特色は、何といっても「UL」「EL」という極細ウェイトを持っていること。この他にも L、R、M、B、Hウェイトもありますが、この2つの極細ウェイトは、特徴が際立っています。このウェイトでは、いわゆる本文組みは細すぎて不向きです。そう、初めから見出し用に使われるのを意識して作られています。
このウェイトで見出しを組むと、太いウェイトでは決して表現できない繊細なイメージを演出することができます。
贅沢なウェイトです。
●従属欧文のあるべき姿を示した欧文デザイン・設計
そして、もう一つの特徴、欧文。デザインは外国のデザイナーに依頼したと聞いていますが、起筆を筆のストロークを連想させるように曲げているところが革新的です。その試みが、漢字・ひらがな・カタカナとの調和に大きく貢献しているように感じています。
また、広めにとられたサイドベアリングは従属(組み込み)欧文ならでは。単独使用というより、和欧混植をイメージしたものと思います。この空間処理は、広めに空いてしまう和文のサイドベアリングと大変マッチします。組んでいて、欧文が混植されていることを忘れるほどです。緻密な計算の元に作られた欧文であることがよくわかります。
●欠点が見あたらない素晴らしい書体
個性を「抑制した」漢字、両かなの控えめな一つひとつの文字は、組まれることの美しさを第一義に追求して設計されたであろうことも容易に想像できます。どんなシチュエーション、どんな内容のものにもマッチする優れた汎用性を持っています。
また、ゴシック書体にありがちな、ウェイトが上がるとフォルムが崩れるということもなく、非常に丁寧に作られています。
私は、どちらかというと伝統的なゴシック書体のほうが好みなので、この書体を多用することはありませんが、純粋に書体を評価する立場からいうと、これといった欠点のない素晴らしい書体、というしかありません。脱帽です。
あとがき
15年ほど前になるでしょうか、作者の鈴木 功氏と一度だけお会いしたことがあります。ウェブサイトを訪れると、スタッフページに鈴木氏の顔写真がありますが、眼光鋭い、精悍な風貌をしていらっしゃいます。お会いした当時と印象はあまりかわってないなと思います。
実直で折り目正しい、文字作りに対する情熱にあふれたかたです。自身のことを「自分」と呼んでいたと記憶しています。タイプデザイナーというより、自衛官のような印象を持ったことも覚えています。
フォントもデザイン作品である以上、作者の人となりが反映されますが、AXIS には、まさに実直な鈴木氏の性格そのものが表現されているように思います。本当に素敵な書体です。
次回は、明朝体の番。字游工房・鳥海 修氏の作品である「游明朝」を取り上げていきます。
書体の性格 もくじ |
1 書体の選びかたでデザインが劇的に変わる。書体の性格を知ろう ●書体選定に役立つ、書体の表情を知るための12+1のチェックポイント |
2 書体の表情 1 ●この書体を使えば失敗はほとんどない=ゴシックMB101 2 ●この書体を見ない日は、まずあり得ない=リュウミン 3 ●正統派なのにどこか素朴であたたかい=セザンヌ 4 ●おおらかさの中に風格が漂う=筑紫B見出ミン-E 5 ●どのウェイトのどの文字種もほぼ完璧=游ゴシック体 6 ●ワンポイントに独特の雰囲気を醸し出す=A1明朝 7 ●普遍的なしっかりとした力を持っている=AXIS 8 ●藤沢周平の小説を組むために作られたという=游明朝体 9 ●macOSやiOSに標準搭載されている=ヒラギノ角ゴ 10 ●現代的と伝統的の不思議なコラボ=ヒラギノ明朝 11 ●好き嫌いがはっきり分かれる=小塚ゴシック 12 ●作者の文字への情熱がほとばしる=小塚明朝 |
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