書体の表情 9:macOSやiOSに標準搭載されている=ヒラギノ角ゴ

TYPOGRAPHY SERIES 2

書体の表情 9 macOSやiOSに標準搭載されている=ヒラギノ角ゴ

書体の性格■各論編 ❾ ヒラギノ角ゴ

macOSやiOSに標準搭載されている=ヒラギノ角ゴ

前回は、字游工房の「游明朝体」を紹介しました。字游工房の書体は、どれも大変緻密に考えられていますが、この「游明朝体」はその頂点といって良いかもしれません。大変優れた書体です。

さて、今回は「SCREENグラフィックソリューションズ」(旧:大日本スクリーン製造)の代表的書体「ヒラギノ角ゴ」を取り上げます。

●書体名・ウェイト名:ヒラギノ角ゴ W1, W2, W3, W4, W5, W6, W7, W8, W9 ●販売フォントベンダ:SCREENグラフィックソリューションズ ●書体の作者:字游工房アイコンの見かた書体の表情・書体の用途

メーカー・開発者の説明

くせのないやや広めのフトコロと、画線両端のアクセントにより、読みやすさと存在感を両立しています。明るくつぶれにくく、業界屈指の多彩なウエイト(太さ)バリエーションで、極小サイズのキャプションから特大サイズの見出しまで、幅広く対応します。
テレビCM・テロップ、道路標識・サイン、雑誌・書籍・ポスター、スマートフォン・タブレット端末など日常のあらゆるシーンで多数採用されている人気書体です。

ヒラギノフォント総合情報サイト」より引用

ヒラギノ角ゴの組み見本

書体の私見・感想

●開発は、写真製版用総合機器メーカーという変わり種

この書体を開発したのは、関連はあるけれどフォントベンダーではない、大日本スクリーン製造(現SCREENホールディングス)という写真製版用総合機器を手がける会社でした。この会社、組織がめまぐるしく変わり、現在「ヒラギノ」をはじめとするフォントは1事業部の「SCREENグラフィックソリューションズ」が販売しています。

当然、フォントベンダーとは根本的に異なり、字母など1文字もなく、1からのスタートとなりました。もちろん書体開発は全くの門外漢たっだため、書体開発そのものは「字游工房」に依頼しました。1990年のことです。この年は、組版システムやフォントを取り巻く環境が激動の時代に入った、いわばターニングポイントだったといってよいかも知れません。

この当時のことを別記事 “フォントフォーマットを知るための4つの視点と4つのフォーマット” で書いています。よろしければご参照ください。

門外漢とはいえ、そのコンセプトづくりは緻密で、しっかりしたものでした。当時の担当者は、フォントのことをよく解っている人たちだったということは容易に想像がつきます。開発に字游工房を選定したのも、先見の明があったといえるでしょう。

●圧倒的な多ウェイト、豊富な文字種

macOS や iOS に標準搭載されていることから、おそらく、この「ヒラギノ角ゴ」を見ないシーンはないほど、広く使われている書体です。デザインは冒頭でも紹介した通り、字游工房。すごい書体を作るなぁとつくづく感心します。

この書体のすごさは、ウェイトが10種類もあること。そして文字種が圧倒的に多いこと。このファミリーを使えば、他になにも使わなくても作品が成立してしまうし、「文字がない」なんてことは、ほとんどあり得ないので、本当に安心して仕事ができます。

組んだときの紙面に濃淡のバラつきが少なく、目に優しい設計になっています。一文字ひともじの空間処理が行き届いた美しい書体です。ややふところの広い「現代的」書体ですが、個性を主張しすぎない、上品な書体に仕上がっています。それが、「現代的」書体にもかかわらず、どんなものにも対応がきく、汎用性の高さにつながっています。

●少し目立ち過ぎる起筆と収筆のアクセント

「ヒラギノ角ゴ」の最大の特徴は、起筆と収筆のアクセントにあります。つまり、画線の両端を少し太くする処理がされています。これは、「伝統的」書体が用いるフォルムで、「現代的」書体には珍しいこと。一般的な「現代的」書体は、ほぼ直線で太さのメリハリがなくなっています。

このアクセントが、一文字ひともじをはっきりと印象付け、可読性の高い効果を生んでいます。

ただ、私の個人的な意見をいわせていただくと、このアクセントがあまり好きではありません。むろん、ただの直線よりフォルムが安定するので、このアクセントは持たせたほうがいいのですが、「ヒラギノ角ゴ」の場合、それが誇張されすぎている気がして、わざとらしく感じるのです。その度合いはウェイトがあがるにつれて大きくなっていきます。

●従属欧文に施したアクセントは是か非か

そして、このアクセントが従属(組み込み)欧文にも適用されているのが、「う~ん」とならざるを得ません。
和欧混植を念頭に置いてとられた措置であることはわかるのですが、もともと成り立ちの違う欧文に起筆、収筆のアクセントは違うんじゃないかなと思うのです。

したがって、優れた、汎用性のある書体であることは認めつつも、私は「ヒラギノ角ゴ」はあまり使いません。
でも、Web は別。Mac では、ゴシック系の font-family は「ヒラギノ角ゴ」がデフォルトになっているせいもあり使用頻度は圧倒的ですが、何よりアクセントがあり、なおかつ横組みを意識した書体です。大変読みやすく、目にやさしい設計であることは確かで、一番ベストな書体だと思っています。

●やはりWebにはヒラギノ角ゴが向いている

近年、游ゴシック体が Mac、Win 双方に標準搭載されたことで、爆発的に Web に使われるようになってきましたが、私は、游ゴシック体は、Web には向かないと思っています。

したがって、自社サイトやブログでは、ヒラギノ角ゴを使っています。(Win で表示されたら不本意ながら、あまり好きではないメイリオになっちゃうんですけど…)でも、游ゴシック体の流れには、確実になっていくでしょうけどね。やっぱり、文字自体の美しさは群を抜いているので…。何より、クロスプラットフォームになったのは大きいです。

ただ、私が一人でごちゃごちゃいっているだけで、「ヒラギノ角ゴ」の汎用性は揺るぐものではありません。これからも現代的ゴシック書体の頂点を維持していくことは間違いありません。

あとがき

この「ヒラギノ角ゴ」を含む「ヒラギノシリーズ」は、2005年度グッドデザイン賞「コミュニケーションデザイン部門」を受賞しています。

この部門での受賞ということは、やはりコミュニケーション能力のある、汎用性の高さを評価されたのでしょう。完成度の非常に高い計算され尽くした書体なので、当然といえば当然です。

ちなみに、書体開発を担当した字游工房は、「ヒラギノシリーズ」の受賞のほか、2008年度東京TDC賞「タイプデザイン賞」を「游明朝体R」「游築初号ゴシックかな」でも受賞しています。

次回は、同じ「SCREENグラフィックソリューションズ」の「ヒラギノ明朝」を取り上げます。

書体の性格
もくじ
1 書体の選びかたでデザインが劇的に変わる。書体の性格を知ろう
  ●書体選定に役立つ、書体の表情を知るための12+1のチェックポイント
2 書体の表情
  1 ●この書体を使えば失敗はほとんどない=ゴシックMB101
  2 ●この書体を見ない日は、まずあり得ない=リュウミン
  3 ●正統派なのにどこか素朴であたたかい=セザンヌ
  4 ●おおらかさの中に風格が漂う=筑紫B見出ミン-E
  5 ●どのウェイトのどの文字種もほぼ完璧=游ゴシック体
  6 ●ワンポイントに独特の雰囲気を醸し出す=A1明朝
  7 ●普遍的なしっかりとした力を持っている=AXIS
  8 ●藤沢周平の小説を組むために作られたという=游明朝体
  9 ●macOSやiOSに標準搭載されている=ヒラギノ角ゴ
  10 ●現代的と伝統的の不思議なコラボ=ヒラギノ明朝
  11 ●好き嫌いがはっきり分かれる=小塚ゴシック
  12 ●作者の文字への情熱がほとばしる=小塚明朝

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