■各論編 ⑪ 小塚ゴシック
好き嫌いがはっきり分かれる=小塚ゴシック
前回は「SCREENグラフィックソリューションズ」の「ヒラギノ明朝」を紹介しました。「現代的」雰囲気の漢字と、「伝統的」な香り漂うかながよくマッチする優れた書体です。
今回は、Adobe 製品にバンドルされ大変普及率の高い書体「アドビシステムズ」の「小塚ゴシック」を取り上げます。
メーカー・開発者の説明
この書体は、Adobe サイトにもコメントが見あたりませんでした。ですので、いい当てているなと思われる「ニコニコ大百科」の説明文を引用しています。
小塚ゴシックは、小塚明朝に続く アドビのオリジナル和文書体であり、Photoshop や Illustrator などの、アドビ製品に入っている。制作したのは、モリサワ社の「新ゴ」で有名な小塚昌彦。
このゴシック体は EL〜H の6つのウェイトで構成されており アドビの製品に付属するため比較的よく使われる書体でもある。「ニコニコ大百科」より引用
書体の私見・感想
●ラインナップから外していた小塚ゴシック
小塚昌彦氏を擁する Adobe が、彼を中心としたチームを立ち上げ制作したのが「小塚ゴシック」。Adobe 製品にバンドルされたことで、広く使われるようになりました。EL、L、R、M、B、H の6ウェイトからなる、ファミリー書体。
実は当初、ブログ記事に「小塚ゴシック」は、ラインナップしていませんでした。なぜなら、この書体を私は数字・欧文以外は使わないからです。この書体の感想を書くと、どうしても否定的なものになってしまうので外していたのですが、そういう意見も必要かなと思い掲載しました。
したがって、正直いってあまり書くこともないのです。
この書体が好きだというかたには、不快な思いをさせてしまいますが、お許しを。
●直線的で特殊なフォルムをしている両かな
フォントとしての仕上がりは、さすが Adobe の書体だけあってよくできていると思いますが、フォルムがなぁ、と思わざるを得ません。EL、L あたりは確かにきれいなのですが、何か違和感があります。特にひらがなはクセのある文字が多く、『か』『き』『さ』『な』『ひ』『み』はなぜこのフォルムになるのかよくわからず、ほかの文字も何かぎこちなさが目立ちます。
また、起筆、送筆・収筆にメリハリがなく、パスで書いたものをアウトラインをとっただけのような感じ。縦画・横画はともかく、両はらいや点、跳ねなどはメリハリがないと締まりがなくなります。そのせいか、フォルムが滑らかに見えないのです。それは、ウェイトが上がる毎に顕著になり、まるで、子供がマジックでかいたように見えてしまいます。
B/Hは字形が崩れてしまっているといって差し支えないと思います。
そのため、POP 書体を使ったような滑稽な印象があり、信憑性にかけてしまうので、使わなくなりました。
●大変美しいMyriad風の従属欧文
でも、悪いことばかりではありません。数字と欧文はよくできています。基本形は Myriad のようです。Myriad をわずかに長体をかけると、ほぼ同じ形状になります。
私は欧文フォントの Myriad より、縦に長い小塚ゴシックの欧文・数字のほうが好きなので、好んで使います。
●小塚氏の特徴が良くも悪くも表れた典型的な書体
小塚氏は、Adobe において、ひとつの書体を短期間で作り上げるための、「ディレクション方式」(この呼び名が正しいかどうかはご勘弁を)を確立していきます。小塚ゴシック、小塚明朝はこの方式でできあがっています。恐らく、試行錯誤の連続だったに違いありません。
私の勝手な推測ですが、この Adobe のチームには、日本人が少なかったのでは、という気がしています。和文書体のフォルムから逸脱していると思わざるを得ないのです。書体デザインの重鎮の小塚昌彦氏をしても、統率しきれなかったのかな、と思っています。
ま、小塚氏の作る書体は親しみやすく、明る過ぎるきらいがあるので、その影響が大きいのかなとも思います。小塚氏の代表作といってよいモリサワの「新ゴ」もその傾向が強く表れています。いずれにしても、ウェイト数も文字数の規模もこの上ない本格書体なのに、実にもったいない書体だなと痛切に感じます。
あとがき
デザインにおいて書体を選定することは大変重要なことです。デザインの良し悪しは、ほとんどこの行為にかかっているといっても過言ではありません。「小塚ゴシック」はその「重要性」を気付かせてくれる役割を持った書体なのかも知れません。
Adobe 製品に搭載されている関係で、Illustrator などを使っていると、デフォルトでこの書体になります。古い Windows や Office に標準搭載されていた MS 書体や HG 書体ほどひどくないし、Mac 使いでものぐさな私は、何もせずそのまま使っています(テンプレートファイルの標準文字スタイルを編集すれば変更できるようです)が、標準搭載書体ではデザインはできないことをつくづく感じます。
まあ、Mac はともかく、Windows もようやく「自分たちはひどい書体を流通させていたんだ」ということを自覚したようで「游ゴシック体」や「游明朝体」といった優れた書体を取り入れるようになりました。
結局、「小塚ゴシック」をそのまま使ったときのデザインイメージとの乖離、軽薄さはどうしようもなく、他の書体に変えてしまいます。Adobe はいつまでこの書体を使うのかなぁ…。「源ノ明朝」や「源ノ角ゴシック」に変えたほうがいいと思うのは私だけでしょうか。(共同開発の Google やイワタなどが絡んでいるから無理かなぁ…)
次回は、最終回。同じくアドビシステムズの「小塚明朝」を取り上げていきます。
書体の性格 もくじ |
1 書体の選びかたでデザインが劇的に変わる。書体の性格を知ろう ●書体選定に役立つ、書体の表情を知るための12+1のチェックポイント |
2 書体の表情 1 ●この書体を使えば失敗はほとんどない=ゴシックMB101 2 ●この書体を見ない日は、まずあり得ない=リュウミン 3 ●正統派なのにどこか素朴であたたかい=セザンヌ 4 ●おおらかさの中に風格が漂う=筑紫B見出ミン-E 5 ●どのウェイトのどの文字種もほぼ完璧=游ゴシック体 6 ●ワンポイントに独特の雰囲気を醸し出す=A1明朝 7 ●普遍的なしっかりとした力を持っている=AXIS 8 ●藤沢周平の小説を組むために作られたという=游明朝体 9 ●macOSやiOSに標準搭載されている=ヒラギノ角ゴ 10 ●現代的と伝統的の不思議なコラボ=ヒラギノ明朝 11 ●好き嫌いがはっきり分かれる=小塚ゴシック 12 ●作者の文字への情熱がほとばしる=小塚明朝 |
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