▼第3回(通算第14回)
前回は、フォントの「ウェイト」について、さまざまな考察をしてきました。私独自の論調もかなりありました。でも、「ウェイト」の奥深さはわかっていただけたと思います。
和文フォントは、その文字種の多さから両仮名のみの「かなフォント」がかなりの数を占めています。それを有効に活用するには、[合成フォント]が必須になります。今回は、[合成フォント]に、話題を絞ってお話ししていきましょう。
第3回:通算第14回 もくじ |
4.5 [合成フォント]を使って表現の幅を広げる 4.5.1 ●「タイポス」の出現が、和文フォントの制作に拍車をかける 4.5.2 ●操作の順番に気をつけたい[合成フォント] 4.5.3 ●[新規合成フォント]の編集方法 4.5.4 ●[特例文字]って何? 「全角欧文」と「全角数字」の設定 4.5.5 ●ちょっとした組み合わせ文字にも便利 4.5.6 ●[サイズ][ベース][垂直比率][水平比率]の意味 |
以下「合成フォント」関連の項は、2023年5月3日に加筆・修正をしました。
4.5 [合成フォント]を使って表現の幅を広げる
Illustrator には、[合成フォント]という便利な機能があります。この機能を使うと、デザインの表現の幅が広がります。
私がよく使う「合成フォント」は、モリサワのリュウミン-KLに、オールドかな(-KO)を組み合わせたもの。この「オールドかな」は、とても気品があり美しいので、信憑性を持たせたい内容のパンフレットなどには欠かせません。
単に、リュウミン-KLで組んだものと比較すると、格段に、見違えるほどに美しくなります。
モリサワのリュウミンは、いま、一番使われている明朝といって差し支えないと思う。スタンダードになり得る美しい形状をしている。
「KL」(かなラージ:大かな)も大変優れた仮名書体だが、「KO」(かなオールド:オールドかな)は、それをはるかに凌ぐ。伝統美といえるほど美しく、それでいて古くさい印象を与えない。
私は、「KO」との「合成フォント」を多用している。使っていて、これほど安心感のある書体は他にない。
4.5.1 ●「タイポス」の出現が、和文フォントの制作に拍車をかける
いまから半世紀以上前の1962年、今後の日本のデザイン業界、フォント業界を大きく牽引して行くであろう象徴的なできごとがありました。仮名フォント「タイポス」の誕生です。その7年後の1969年に、タイポスを搭載した写植の文字盤が、「写研」から発売されます。(別記事、“文字随想:タイポスとの出会い” に詳細)
このできごとが、国内フォントベンダの和文フォント制作に火をつけることになります。以後、「仮名フォント」や、膨大な数の漢字を搭載した「総合フォント」が、それこそ雨後の竹の子のように生み出されていきました。
私も、タイポスの発表から遅れること、40年後の2001年にフォントベンダの仲間入りをしました。(遅れすぎ?)
さて、Illustrator の[合成フォント]は、漢字を持たない「仮名フォント」を、いとも簡単に「総合フォント」に変える能力を持っています。
4.5.2 ●操作の順番に気をつけたい[合成フォント]
くどくど説明するより、図で見てもらっったほうがいいですね。
書式>合成フォント
[合成フォント]は、のちほど詳しくお話ししますが、デフォルトで[漢字][かな][全角約物][全角記号][半角欧文][半角数字]の6種類の「組み合わせフォント」をつくることができます。実際に「総合フォント」と「仮名フォント」の組み合わせをつくってみましょう。
この例では「総合フォント」は「DFP痩金体 W3」、「仮名フォント」は、私の制作した仮名フォント「奔行かなStd-L」を使用します。
最初に、「仮名フォント」の収録文字種を調べておきましょう。仮名フォントなので、基本的には両仮名しか入っていませんが、中には「半角欧文」「半角数字」を収録したものもあります。ちなみに「うち」の仮名フォントは、そのほかに若干の記号類、「全角欧文」「全角数字」も収録しています。
調べかたは、手っ取り早いのは入力してみること。表示しないか、置換文字がでてきたら入っていないということです。そのほか、Illustrator の[ウインドウ]>[書体]>[字形]パネルの[フォント全体]を表示させれば、一目瞭然です。
では、順を追っていきましょう。[かな][半角欧文][半角数字]の3ヵ所を「奔行かなStd-L」に入れ替える作業をします。
この[合成フォント]のダイアログは、少しわかりづらくできています。順番がありますので、番号の順に操作をしてください。(CSのダイアログは、少しボタンの位置の配列が違います)
編集の前に、メニューの[合成フォント]をクリックするとでてくるダイアログ「新規合成フォント 1」にちょっと手を加えて「テンプレート」にしてしまいましょう。操作は簡単。
[漢字]を適当なフォント(何でもいい)を選んで、変えます。[保存]ボタンがアクティブ(操作可能)になるので、[保存]>[OK]で[新規合成フォント 1]という名前のテンプレートができあがります。今後、これを用いて(選択して)新しい合成フォントを作っていきます。
❶ を編集していきます。テンプレート[新規合成フォント 1]を選択しておきます。❶ の詳しい操作方法は少し下をスクロールしたところにまとめてあります。
❷ 中央左側の[新規…]のボタンをクリックします。
❸ 新しいダイアログ[新規合成フォント]が中央にでてくるので、[元とするフォント]を選択します。
ここは、初めて作成するときは[なし]になっていますが、デフォルトでは次回以降は、作成した[合成フォントリスト]の一番上が表示されます。これを使用した場合、うっかりすると上書きしてしまい、内容が変わってしまうことがあります。それを避けるためにテンプレートを使用します。
すでにさきほど作成した[新規合成フォント 1]を選択しているので、ここは[新規合成フォント 1]となっているはずです。
❹ 作成したい「合成フォント」の名前をつけます。わかりやすいものがいいですね。私は先に漢字フォント名、次に仮名フォント名をつなげ、最後にウェイト名をつけます。この例では[痩金奔行-L]としました。
フォント名は、自分のパソコン内に登録する分には、「和文」でも大丈夫です(私の場合は一度も不具合はでていません)が、和文で名前をつけた「合成フォント」を使用したドキュメントが、他のパソコンで開けないことがあるとか…。「英数字とハイフンのみ」で命名したほうが無難なようです。
❺ 最後に[OK]を押します。その瞬間にダイアログのタイトルが[痩金奔行-L]となり、中程にある[保存]ボタンがアクティブになります。
4.5.3 ●[新規合成フォント]の編集方法
表組み部分の編集に入ります。
❶ を順に説明します。
[漢字]
任意の「総合フォント名」を選択します。「総合フォント」とは漢字や両仮名、約物、欧文・洋数字など、一通りそろっている書体をいいます。この例では「DFP痩金体 W3」を選択しました。[フォント]はクリックすると[フォントリスト]が表示されるようになっています。複数のウェイトがある場合は、別枠(すぐ右)のプルダウンで選択します。
[かな]
任意の「仮名フォント」を選択します。「仮名フォント」とは、両仮名のみ、あるいは両仮名、欧文・洋数字、一部の約物などをセットした書体をいいます。この例では、私の書体「奔行かなStd-L」を選択しました。「奔行かなStd-L」は大ぶりに製作してあり漢字より大きく見えるため、少し小さめにします。ここでは[サイズ]を[90%]にしました。(一番右の項目をクリックし[サイズ]の数値を変えます)
[全角約物][全角記号]
「仮名フォント」に約物や記号がセットされている場合は、その書体に変更できます。ただし、すべての約物・記号類を収録している仮名フォントはほとんどないので、[漢字]で選択した「総合フォント」にするのが無難です。この例では「DFP痩金体 W3」を選択しました。
[半角欧文][半角数字]
[全角約物][全角記号]同様、「仮名フォント」に欧文や数字がセットされている場合は、その書体に変更できます。この例では「奔行かなStd-L」を選択しました。[かな]の操作で[90%]にしたので、ここも追随します。
ここまでの作業が終わったら、上記 ❷ に戻り、❺ までの編集(合成フォントの名前をつける)を終わらせます。
まだ、「保存」(❻)は押さないでください。[特例文字]の編集が残っています。
なお、この[特殊文字]は、今回、「奔行-L」が漢字の「DFP痩金体 W3」より大きく見えるため、やむを得ずサイズを[90%]にしなければならないという特殊な事情のため、必要な編集操作です。
[全角記号]には「全角欧文」「全角数字」が含まれており、[かな]と同じく[90%]にしたいのに、[全角記号]ではグレーアウトしていて操作できないための、緊急措置です。
ですので、普通の設定では必要のない編集操作ですので、❻ の[保存]を押し、❼ の[OK]で終了してかまいません。
4.5.4 ●[特例文字]って何? 「全角欧文」と「全角数字」の設定
さて、[全角約物]と[全角記号]は、総合書体の「DFP痩金体 W3」のほうが仮名書体の「奔行かなStd-L」より多いので、「痩金」で設定しましたが、問題は「全角欧文」と「全角数字」です。項目がないんですね。さてどうしたものか、とダイアログを見渡すと、[特例文字]というボタンがあります。そう、ここで設定できるんですね。
さっそく、
ⓐ[特例文字]を押すと、[特例文字セット編集]というダイアログが中央にでます。
ⓑ[新規]をクリック。[新規特例文字セット]という小さなダイアログがさらにでます。
ⓒ[名前]に、作りたいセットの名称を入力(ここで入力したものが、おおもとのダイアログのタイトルになります)この例では「全角欧文」と「全角数字」を作りたいので「全角欧数」と入れます。
ⓓ[元とするセット]のセレクトボックスをクリックします。デフォルトは[なし]になっています。
6種類の選択肢がでます。[カタカナ][ひらがな][約物][全角記号/数字][半角数字][全角数字]です。この例では[全角記号/数字]を選択し、
ⓔ[OK]を押します。(全角数字と全角欧文は、この[全角記号/数字]にまとめて分類されています)
[全角記号/数字]は文字種が多いのでズラッとでましたね。
タイトルがさきほど設定した[全角欧数]に変わりました。
ⓕ[フォント]欄の[▼]をクリックすると、フォントメニューがでるので、この例では「奔行かな-L」を選択(複数のウェイトがある場合、ウェイトの選択も忘れずに)。内容が「奔行かな-L」に変わります。
仮名フォントの[約物][全角記号/数字]は書体によって収録文字種に相当なバラつきがあります。つまり、作っていない約物や記号があります。ⓕ の工程で仮名書体を選択すると、「置換文字」になっている文字種がたくさんあるはず。これを1文字ずつ[削除]してください。(複数は選択できません)結構へこむ作業です。
これをしないと、文章を組んだとき、約物や記号が「置換文字」になってしまいます。([特例文字]がデフォルトの[全角約物][全角記号]より優先されるため)くれぐれもご注意を。
もっとも、使用頻度の低い「全角欧文」にこだわらなければ、[全角数字]で10文字登録すればいい話で、こんな面倒くさい作業をする必要もないのですが…。
ⓖ[保存]をクリック、ⓗ[OK]を押してダイアログを閉じます。
おおもとのダイアログに[全角欧数]が追加されました。
「奔行かなStd-L」は[かな][半角欧文][半角数字]をそれぞれ90%に下げていたので、比率を同じに編集します。これで完璧ですね。
❻[保存]をクリック、最後に
❼[OK]を押してダイアログを閉じます。
[フォントリスト]を確認してください。できていますね。
4.5.5 ●ちょっとした組み合わせ文字にも便利
この[特例文字]は、ちょっとした「合成フォント」を作るのに重宝します。たとえば、チラシなどに使う値段、「円」は普通小さくして数字と下揃えにしますね。こんなのも簡単に作れます。picture4-10-4、picture4-10-5を参照しながら、挑戦してみてください。
ⓒ[名前]に[チラシ円]などと名前をつけて、
ⓓ[元とするセット]のセレクトボックスは[なし]をそのまま選択(「漢字」は、分類がないので)。
ⓔ[OK]を押します。
タイトルが[チラシ円]のダイアログになりました。
ⓕ ここだけ少し作業が異なります。[文字]欄に「円」を[直接入力]します。この[文字]欄は1文字のみです。ひとつ右の[追加]をクリックします(複数登録するときはその都度[追加])。
ⓖ[保存]をクリック、ⓗ[OK]を押してダイアログを閉じます。
おおもとのダイアログに[チラシ円]が追加されました。
「円」は小さくするのと、ベースラインを下げる数値設定をします。イメージが下のボックスに表示されるので、ラクですね。終了したら、
❻[保存]をクリック、最後に
❼[OK]を押してダイアログを閉じます。
4.5.6 ●[サイズ][ベース][垂直比率][水平比率]の意味
付随した説明をしておきます。
[サイズ]
サイズを変更できるようになっています。この例では、主体の漢字になる「DFP痩金体 W3」が「奔行かなStd-L」と比べ作りが小さいため、「奔行かなStd-L」の[サイズ]を[90%]に下げ、見た目を揃えました。
ダイアログの下のほうにある大きなボックスに「組み見本」が表示されるようになっています。ボックス右上でサイズの変更ができるようになっています。この例では[150%]にしました。[サイズ]の変更をリアルタイムで確認できます。
[ベース]
ベースラインの調整ができます。[半角欧文][半角数字]を和文と合わせるのに便利です。[全角約物][全角記号]は、アクティブ(操作可能)にはなっていますが、実際には効きません。
[垂直比率][水平比率]
縦長や、平べったくできるようですが、どんな用途に使うのか、よくわかりません…。必要なのかな? どなたか、知っていたら教えてください。
その右側の[アイコン]は[文字中央で拡大・縮小]とのこと。[サイズ]と連携しているようです。
追記(2017.10.10)
大石十三夫さんからコメントをいただきました。
[文字中央で拡大・縮小]の欄は、仮名などの比率を変更した際、字送りピッチを維持したい場合にチェックを入れます。このチェックが外れていると、設定した比率に比例したパーセンテージで字送りが増減してしまいます。
さらに、[合成フォント]は基本的に欧文ベースラインが基準の揃えになっているため、縮小すると下に、拡大すると上に飛びでてしまいます。これは、欧文のベースラインが文字の中心ではなく、かなり下に位置するためです。
チェックを入れると、それに歯止めがかかり、元の字送りピッチを維持します。したがって、ベタ組みに使用するときは、ここのチェックは必須となります。また、欧文ベースラインによる位置のズレを回避します。
なお、このチェックは、デフォルトで入るようです。
私は、「仮名フォント」を多数つくっているので、「合成フォント」は[フォントリスト]の中に、すごい数が入っています。重宝しています。
なお、すでに作成した「合成フォント」の一部を修正したいときは、[合成フォント]を開き、目的の合成したフォント名を選択して、6項目の編集をし[保存]を押せば、「上書き」ができます。
● ● ●
次回(第4回:通算第15回)は、こまごまとしたタイポグラフィのテクニックを図解を交えてまとめました。予告下ページャ[4]のをクリックを。
第4回:通算第15回 予告 |
4.6 約物(記号類)のサイズを上げる |
4.7 役割を逆転させる | |
4.8 一文字ずつばらす | |
4.9 ほとんどのグラフィック作品は、明朝とゴシックでできている | |
4.10 縦書きの有効さを知る | |
4.11 文字修飾をやたらに使わない |
メイクアップ(化粧)の理論も同じような「整える」事からはじまっているのでしょう⁉ 人間が美しいと感じる事は自然の理(振動・波)によってキリンやゼブラフィッシュなどの紋様が出来ている事からも推察できると思っております。 そしてそれは文字の世界でも同じで、整える事からはじまっていくと思います。 これからもよろしくお願いします。
MASAHIRO YAMANAKA さん、コメントありがとうございます。
おっしゃるとおり、「整える」ことはデザインの基本中の基本です。
そしてタイポグラフィはデザイン万般に通用する極めて重要なものだと思っています。
この特集は大変長編ですが、お付き合いいただければ幸いです。
こちらこそよろしくお願いいたします。
私の書き方が悪かったと思いますが…
基本的にベースラインで揃えられることと字送りピッチとは無関係です…
ともあれ、大き過ぎる仮名、あるいは小さく見える仮名などをベタ組みで使いたい際には、「中央から〜」が必須なのはご理解いただけると思います…これをすることによって「欧文ベースライン」の縛りから解放されますので…
大石さん、ありがとうございます。
まったく、言葉が足りていませんでした。追記、加筆修正しました。
大石さん、いつもありがとうございます。
早速、追記します。
合成フォントは基本的に欧文ベースラインを元に揃えられます
なので、仮名などの比率を変更し字送りピッチを維持したい場合は、
中心から拡大/縮小をチェックする必要があります